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「堺自治モデル」の可能性 住民主権で拓く持続可能なまちづくり

堺市職員労働組合自治研部長・中村晶子

はじめに

 昨年2月に美原町と合併し、83万人となった堺市。現在、06年4月の政令指定都市移行をめざし、さまざまな問題を抱えながら手続きが進められている。自治の単位としては人口が多すぎる都市で、住民主権のための自治のしくみを市民とともに議論するため、8月20日、堺市職員労働組合の主催で「堺の未来を拓く市民シンポジウム―政令指定都市と住民参加・分権のまちづくり―」が開催された。

都市内分権と持続可能な都市

 基調講演は、立命館大学森裕之助教授による「これからの地方財政と自治都市・堺の展望―持続可能な都市をめざして」。

 森氏はまず、「持続可能な都市」の要件について、環境、社会、経済という三つの社会的条件を都市内で自律的・持続的な形でコントロールすること、すなわち中央集権的な政治行政制度を克服し都市自治体が民主的で自律的な仕組みのもとに運営されなければならないとした。

 その上で、堺では、市政を支える財政基盤が崩壊の危機にあるにもかかわらず、現市長が再選出馬にあたって示した「政策提言」では臨海部開発など、「成長」する社会を前提とした20世紀型大型開発が次々と計画されていると指摘。これを転換し、福祉、教育、医療、環境など社会の「安全ネット」の構築と、都市内の分権的な仕組みの創造が、「持続可能な都市」をつくるための必要不可欠な装置であるとされた。

「市民会議」に対する市役所の義務と責任の明確化

堺自治モデル シンポジウムで提案した「堺自治モデル」は、大阪自治体問題研究所と森氏、初村氏の協力を得て堺市職労行財政分析研究会で議論し、市民議論に供した都市内分権モデルである。

 合併での住民投票拒否や、道路建設に係る府残債460億円の引き継ぎなど政令指定移行「確認書」問題、市民の信を問うことなくすすめられる臨海部開発など、現在の堺市政の根本問題は「住民不在」にある。

 これを転換するためには「都市内分権」による住民主権の確立が不可欠であり、その目的は次の五点に集約される。

(1)住民が自治体の主権者としての地位を取り戻す
(2)行政を住民がコントロールし、住民ニーズに合ったサービスを充実させることができる
(3)身近なサービスを充実させることにより、大型開発など無駄な事業を削減できる
(4)行政と住民との間に信頼関係を取り戻す
(5)市政全体を考えるべき議会を活性化する

 これらを実現するため、「堺自治モデル」では当面各支所(7ヶ所・人口3万9千〜15万8千)単位での「市民会議」創設を提言した。

 「堺自治モデル」の最大の特長は、区ごとに設置する「市民会議」を単なる諮問機関に終わらせるのではなく、地域における事業の提案主体として位置づけ、市役所(本庁)各部局に対して、市民会議で提案された事業や地域計画に対する検討義務と予算化についての説明責任を課している点にある。

 現在、横浜市など政令指定都市で試みられている「都市内分権」は区役所の権限強化を強調、一定の財源を区役所に下ろし、それを区独自の「創意工夫で」執行するというものである。しかし、これらの多くは本庁と区役所との「行政内分権」にとどまり、地域住民の関与も、区の財源と権限の範囲に留められてしまうという問題点がある。

 また、「堺自治モデル」は、現市政がすすめるNPM型改革の対抗軸となる。なぜなら、自治体サービスの市場化を無原則に推しすすめる方向は、自治体の政策やサービスのあり方を住民自身が自己決定して高めていく住民主権の考え方とは相容れないからである。

川崎市・松代町
  ―豊かな自治の実践を参考に

 基調報告に続き、川崎市会議員の市古てるみ氏より現在試行実施されている「区民会議」を中心にした川崎市の事例報告がおこなわれた。区民会議では、自転車問題や子育て支援など、住民に身近なテーマが熱心に議論され、住民参加の具体化という意味で、積極的な側面は評価できるが、行政主導の中でパートナーシップに名を借りた公的責任の放棄につながるのではといった問題点も示された。

 次に「住民自治エネルギーの結集による松代の復興」と題してNPO法人夢空間松代のまちと心を育てる会事務局長香山篤美氏が報告をおこなった。1966年に長野市に合併され、住民自治のエネルギーが衰退していた現状を、住民自らが行政依存から抜け出し、歴史文化遺産の活用によるまちづくりすすめたのををきっかけに、行政を再度身近に引き寄せ、松代の再生に成功した経験が熱く語られた。

 シンポジウムは、講演者と二人の報告者に加え、堺市指定都市推進部長の太田博通氏、堺市民の立場から盛喜八郎氏、堺市職員労働組合の丹野委員長が参加し、コーディネーターは大阪自治体問題研究所の初村尤而氏ですすめられた。

 会場からの発言も含めたディスカッションでは財政、政令指定都市問題などに加え、職員の人件費や行政姿勢など、市への強い批判も含めたさまざまな意見が交わされた。

「堺自治モデル」の可能性

 堺市では昨年、住民投票条例直接請求が取り組まれ、3万2千の署名が寄せられた。美原町でも二回の直接請求が実施され、これらの運動の中で、住民主権の実質を住民自身の手で獲得しようというエネルギーは大きく高まった。 このような住民運動のエネルギーに加え、自治会等の活動実績や、今後の「団塊の世代」の退職など、多くの能力と良識を持った市民の地域での活躍が期待される。これらの市民の力は堺市の持つ最大の資産に他ならない。自治の担い手はそこに住む市民であり、市民がいかにそのまちにふさわしい自治の仕組みを、自らの議論の中で作り上げ、自治体がそれをどれだけ責任もって保障するかに「自治都市・堺」の未来と21世紀の「持続可能な都市」への展望がかかっている。「堺自治モデル」をたたき台として、今後も市民議論をすすめていきたい。

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