トップ  >  共同研究  >  防災まちづくり研究会(大阪自治体労働組合総連合、大阪から公害をなくす会)  >  防災まちづくり研究会 『提言』をまとめ、報告集会を3月2日に開催 [2013.3.19]

『提言』報告集会 講演・報告の概要

 ※この概要は、編集者の責任でまとめたものです。

主催者挨拶と基調講演「大阪における防災まちづくりの課題と対策」

研究会代表(研究所副理事長) 中山徹・奈良女子大学教授

 東日本大震災を受けて、大阪自治労連、公害をなくす会、大阪自治体問題研究所の3つの組織が防災まちづく研究会をつくり1年間研究を続けてきた。

 阪神淡路大震災のあとに直下型地震を対象に新自治体防災計画を出した。自治体労働者も入って検討した。

 今防災計画の見直しを各自治体が進めている。自治体労働者、住民目線で行政と違う視点で考えてきた。行政のように全面的ではないが行政に携われるものが違った視点で検討している。

 私からは全般に関わる説明をしたい。資料の「はじめに」から。

 大阪府も防災計画の見直しをしている。いまの防災計画には海溝型巨大地震を想定していない。阪神淡路大震災は8割が住宅の倒壊で亡くなったが、東日本大震災は津波で多くの人が亡くなった。最大規模の海溝型地震では大阪湾にも5mの津波がくると想定している。大阪府の今までの想定の約二倍。台風を想定した防潮堤の高さのギリギリになっている。それがもちこたえられるのかどうか。

 阪神淡路大震災では建物が倒壊しなくても家具の倒壊で亡くなった。関西ではそれまで巨大地震は起こらないと勘違いしていた。地震のあとに転倒防止のグッズを買った人がたくさんいる。梅田の地下街に出かけたときに津波や地震の心配をしている人は少ないだろう。

 この「提言」は、学者の検討ではない。行政実務者、市民の視点から防災を見直している。海溝型地震と同じく直下型地震も連動する。木造密集地の解消や対策も進んでいない。建物倒壊を防ぐことに加えて、津波対策も考えないといけない。
津波は最大5mぐらいになる。市内防潮堤ではギリギリのところ。液状化で防潮堤が傾く。門扉や水門も閉じられるのか。うまく閉められることができるのか。かと言っても、天端の高い防潮堤を張り巡らすのも非現実。極めて発生頻度の低い超巨大地震津波にハードすべて防ぐのは不可能。財政的にも無理。今の防潮堤で防ぐのとあわせて避難するというソフト対策の重ね合わせで対応するのが現実的。

 津波が大阪湾にくるのは1時間後。十分に避難ができる時間がある。一方、比較的発生頻度の高いものはハード対策で。

 先週、出張で高知県に出かけた。黒潮町では30m以上の津波がくる。ここは抜本的な対策が必要になる。

 大阪湾のコンビナートには別途対策が必要になる。関東は地震・津波で浮かないようにガスタンクを地下に埋めている。大阪では陸の上にある。市街地に漂流する危険性がある。緩衝帯はあるが、住宅地に漂流して火災が発生する危険性もある。ガスタンクの地下化など危険物を管理している側で抜本的な対策がいる。

 建物の耐震化も個人の対策だけでは限界ある。住宅が倒壊すると火災の原因になり、避難や救援の経路を閉ざす。また自宅が安全ならば被災者が避難せずそこで過ごせる。個人財産の支援だと躊躇するのではなく、小学校の耐震改修は進んでいる。個人の住宅地にはまだ支援が弱い。公共性の意味を整理して大胆な事前支援をしていくべき。

 公立でも保育所は耐震改修が遅れている。民営化されていることも遅れている原因のひとつ。すぐに対策をしなければならない。子供の命に関わる。

 公的な行政の責任が曖昧になっている。「官から民へ」で行政の責任も体制の処理能力も落ちている。

 液状化対策は個人ではもっと対応が困難である。自分の敷地内では対応できるものが少ない。地域ごとの対策がいる。傾斜地以外では直ちに液状化で人命が危機にさらされる訳ではないが、一度被害を受けると損失が大きい。もう住めなくなる。財産が失われる。

 優先順位で個人の住宅地の対策が遅れた場合、その公的な責任はどうなるのか。

 大阪は溜池が多い。溜池などを埋め立てた土地は地下水が高いので液状化し易い。公的な施設は液状化対策しているが、住宅地は対策が取られていない。地盤の履歴を公表して欲しい。一方で資産価値が落ちるので公表を嫌がる者もいる。両方が正論。行政がハザードマップを公表する以上、それに対する対策も同時に発表すべき。もし、対策を進めること難しい場合は、低下した資産価値を行政が保障できるような仕組みを検討すべきである。

 公立の保育所で園内の避難訓練だけしかされていない。小学校までの避難経路の安全は確保されているのか。

 学区ごと行政区ごとの避難地の割り振りだが、近隣の避難地の方が近い場合もある。画一的、縦割りの防災計画になっていないか。 

 高齢者施設の避難。夜間など職員だけは不可能。地域の人たちの力も借りないといけない。それを想定した訓練はされていない。

 実務者が日常的な不安などを出す中で問題や対策が浮き彫りになってきた。

 自由に行政の職員が意見を言えるような職場でないと、そのこともできない。

 先日、島原に出かけた。雲仙普賢岳は20年前で住宅対策は済んだが、防災対策は続いている。防災対策は長い時間がかかるもの。阪神淡路大震災でも地震での直接被災のあとに行政に不作為による「人災」の2度の被害を受けたと言っている人たちがいる。発災後の対策も、地域の経済や住民の生活再建などが優先されなければならない。

5つの地域的特徴からみた被害対策

1.大阪湾の防潮堤とコンビーナート被害対策  大阪府関係職員労働組合  有田洋明

 西大阪治水事務所に勤務している。大阪の地域の特性、かつては河内湾ですべてうみだった。江戸時代に今の地形の原型になる。海抜ゼロメートル地帯が広がる。堤防がなければほとんどが内水域になる。

 大阪では津波が発生した直近は昭和初期。その当時の大阪の地形からの変化といえば、高度成長期に沿岸部にコンビナートが出来たこと。新たな極大の想定南海トラフ地震M9の被害想定では阪和線沿まで津波の被害が広がる予測がされている。

 津波防御は防潮堤がする。OP2.1mが満潮位、その上に津波がくる。大阪湾の防潮堤は高潮対策で整備された。大阪湾は高度成長期に地下水汲み上げ地盤が2〜3m沈下している。一度入った海水は引かない。懸案の水門や門扉の耐震対策も8割ほど進んでいる。

 津波警報が出れば自治体職員や地域の水防団が水門を閉める。大阪府は本年の2月22日にすべて門扉が遠隔操作で閉められるようになった。主要3水門が確実に閉まればその背後の浸水被害が防げる。ただし、防潮堤は高潮用なので津波の水圧や漂流物の衝突などで持つのかなどの問題もある。

 コンビナートは特定の企業が対策をしている(らしい)がどこまで危険でどこまで対策できているのかがなかなか明らかになっていない。

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2.液状化対策 東大阪市職員労働組合  岩野清

 検討は国土交通労組の平田さんにも協力してもらった。

 赤色が液状化危険性がある。大阪平野の奥にクジラの化石が出てきた。かつてはほとんど海だった。

 湾岸地区の液状化が心配。浦安市の例から説明する。浦安市内の約87%の住宅が液状化の被害を受けた。浦安市の歴史、当初は工業地を誘致しようとしたが変更して住宅地にした。東京ディズニーリゾート以外はすべて液状化被害を受けた。今、液状化の損害で住民が開発者の三井不動産を訴えている。被告は想定外と言っているが・・・。

 阪神淡路大震災でも淀川護岸が大きな被災を受けていた。液状化は地盤だけではない。河川護岸では地下や周辺地盤だけでなく堤体本体も液状化している。

 実は阪神淡路大震災のときから分かっていたみたいだが、その経験が活かされていない。

 住民宅地の液状化対策は個人ではなかなかできない。

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3.地下街や高層ビルにおける対策

 ?地下街対策 大阪市役所労働組合 斉藤彰英、

 地下街には数十万人の利用者がいる。地下鉄の利用者も同じく多数が毎日利用している。それでは地震や豪雨の浸水の対策はどうなっているのか。公的な支援で対策はされつつあるが、地下の電気室に浸水すると停電する。パニックになる。機械に任せれない対策もある。止水板は人の力で行う。

 地下鉄の民営化で防災対策が徹底されるのか、心配である。大阪市では危機管理室は地下街を担当する。来年秋に住民投票で再来年には大阪都をつくることになっている。防災対策が十分に機能するのか疑問である。

?高層ビル対策 市民研究者 佐々木秀樹

 長周期地震動が問題化したのがメキシコ地震(1985年)。メキシコシティは湖を埋めたてたもの。

 南海トラフ地震の巨大地震も周期的に発生している。内陸直下型地震も周期が長い(上町断層帯地震、約8千年おき)のでいつ発生するかわかならないが起こると被害が大きい。

 長周期地震動による高層ビルの被害が懸念されている。長周期地震に対する対策は制震、免震がある。制震ダンパーを設置すると10〜30%の地震動を抑制すると言われている。3・11では免震装置に被災の報告もある。万全ではない。

 地盤の周期は堆積層の厚さで決まる。6〜7秒が大阪湾の卓越周期になる。

 WTCは耐震補強しても3から4mの振幅がある。揺れの大きさは制震ダンパーを設置してもあまり改善されない。揺れて地震力を吸収するので倒壊はまぬがれても、スプリンクラーなどが故障すると火災を消火できないなどの問題がある。

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4.木造密集市街地対策   守口市職員労働組合  吉田忠正

 木造市街地の密集地の3分類。戦前からの古い市街地、戦災をまぬがれた市街地、典型的なスプロール市街地がある。全国の密集市街地の3割が大阪市とのその周辺にある。いわゆる文化住宅である。住宅住居者には高齢者が多い。無対策だと、耐震化ができず火災が延焼する危険性がある。消防車も入れない狭い道路が多数ある。

 建物耐震化の補助は全43市町村でやられている。内容は耐震検討費の9割、耐震化工事では数十万円の補助だが、それでは足らない。高齢者で低所得者が多いので進んでいない。改良工事中の住まいの確保もいる。

 避難経路の確保も必要。対策メニューは色々あるが、時間と予算があるものが多い。それを待たずにできるすぐできる耐震・防災対策を重ねていく。

 自治体労働者がコミュニティも含めて守ってくことが大事。

5.山沿い、ノリ地対策 大阪から公害をなくす会  前川謙二

 宇治の豪雨災害の写真から説明。小さな沢が山奥で崩れる。1800箇所のうち300箇所しか対策をされていない。

 盛土造成地の被害ではまず点検から。自分の住んでいるところが危険かどうかもわからない。

 地すべり危険箇所は大阪では100箇所以上ある。擁壁も老朽化しておりなお危険である。

 5m以上の落差の急傾斜地の崩落危険箇所でも建築申請を許可している。1000箇所のうち対策できたのは100箇所ほどで、ほとんどがまだ対策出来ていない。

 大阪府では対策委員会をしている。記事録をみると驚く。整備率は12%しかない。政治と行政のイニシアチブが必要。

 ダムサイトの地すべりを少し説明する。奈良大滝ダムの地すべりが進んでいる。移転地すら地すべりをして、結局、移転者が全戸再移転することとなっている。

 安威川ダムも危険。破砕帯が無数にある。岩盤が弱い。当初計画ではコンクリートダムもロックフィルに変更している。

 保安林で山地荒廃を防ぐ。静岡で行われた保安林。松や檜は弱い。広葉樹をつくるべき。

 江戸時代の築造の溜池の地震対策、大雨対策が必要。ハザードマップをつくることが大事。

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住民の身近な行政分野からの防災対策

1.公立保育所 大阪自治労連保育部会 中村美樹

 保育所はゼロ歳から5歳の子供を預かっている。

 災害時にまず考えるのが子供の安全確保。お昼寝で布団を敷くと部屋いっぱいになる。部屋のものが動く落ちる心配も。

 採光できるように大きな窓も地震では危険な箇所になる。出入り口も狭いところある。飛散防止の窓ガラスも蛍光灯もない。

 子供が大きな声で動き回るので、静かな二階に乳児がいる保育所も多い。保育士の配置基準がゼロ歳児3人に一人。災害が発生した時に保育士一人で三人子供も安全移動させることができるのか。両脇に抱えても二人までで手いっぱいになる。

 小学校のように隠れる机もない。唯一の隠れ蓑はロッカーだが、それものがが詰まっていたりする。

 保育士の配置基準は、国の基準を上回る保育部会の提言している。国の最低基準では避難は困難。しっかり抱きかかえて避難はできるようにするにはそれなりの体制がいる。

 お母さんに連絡して迎えに来てもらうが、親が帰宅困難者になったらすぐに迎えに来れない。大阪では保育所の耐震対策がまだまだできていない。

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2.公衆衛生 大阪自治労連公衆衛生部会  山本裕美子

 公衆衛生は揺り籠から墓場までで広範だが、今回は保健師活動に関わって話をする。

 これまで保健所と保険センターが役割分担していたが、地域主権行革で保健所はどんどん減らされている。

 高齢者や障害者は災害弱者になる。大阪府の保健師はコミュニティに中心に対応していたが、業務分担制に変えられた。業務量は増えるが人は減る。

 難病チームの実態を報告したい。昨年夏には計画停電があった。人工呼吸器で生活をしている方々、在宅酸素の方々もいる。電気イコール命綱。事前に確認と点検活動をした。バッテリーはあるがそれがちゃんと機能するか。シミュレーションもする。緊急時に持ち出すものをまとめるなど、滅菌や吸引の機器の点検もした。

 東北大震災で人工呼吸器が必要な方が近畿にくる話もあったが自衛隊機では電気容量が少ない、随行する医者がいなくて実現しなかった。

 常備薬のカプセルを処方箋と共に冷蔵庫に入れるなど対策もしている。

 行政にいる保健師をもっと増やして欲しい。人口1万人に一人を要求している。外国では実現している。

 マニュアルだけでなくシミュレーションをしっかりすることが大事。日々のサービスが基礎自治体に降りている。住民の方々との連携がさらに必要になる。

3.医療  大阪医療問題連絡会 池尾 正

 大阪医療問題連絡会は、「いのちを大切にする大阪」を目指して運動をしている。請願署名23084筆を府議会に提出している。

 府下の災害拠点病院は19箇所にあるが場所が都市部に厚く地方部に薄い偏在がある。病院頻度に格差がある。

 地域による医療格差。住民一人あたりの病院スタッフは大阪府は全国の平均より高いが府内には格差がある。特に全国平均より保健師、看護師が少ない。

 大阪府交渉では19の災害医療病院の基準。災害72時間は自力でやらないといけないが、対応が不十分と指摘している。大阪府の災害対策の予算は年間1病院で52万円だけ。これでは何もできない。大阪府自身が予算と実態の把握も不十分と認める。

 自家発電の燃料も15時間しか発電する分しかない。津波や豪雨での浸水の危険がある地下に装置が置かれたままも。備蓄品も上の階に上げないといけないのに対策ができていない。

 効率病院、災害拠点病院キャラバンで現状と実態を把握して運動につなげている。

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4.水道  大阪自治労連公営企業評議会 植本眞司

 水道の耐震化の説明は模型で説明する。水道事業は独立採算で運営している。平均年齢45歳で若手が採用されない。

 大阪は全国平均に比べても老朽化が多い。組合は増員要求をしているが、料金収入が減る中で職員を減らしている。

 古い水道管は動脈硬化の血管のようだ。これをモルタルコーティングをしたり、新設管に入れ替える工事を進めている。

防災対策と国出先機関の役割

国土交通労働組合近畿地方協議会  平田喜久男

 国が直接管理している道路や河川は全体に占める割合はすくないが、物流や防災上重要な役割を果たしている。

 一言で二重行政というが二重で管理している施設などどこにもない。役割が違う、 目的が違うから管理の仕方も違う。それをガラガラポンで一つにして、全体の行政サービスの水準を落とそうとしているのが、地域主権改革や道州制である。行政の破壊、行政サービスの破壊は自民党 橋本首相から今の橋下大阪市長まで、脈々と進められている。破壊は何も生み出さない。

 維持管理や防災対策などは予算と体制が必要になる。大陸型の行政システムを災害大国・日本に無理やり当てはめることは無理がある。

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今後の防災まちづくりをどうすすめるのか

大阪自治労連 荒田 功

 くらしを支えていくことや災害時に住民の命を守る役割は自治体労働者にある。しかし、研究を通じてわかったのは、公務員削減や市町村合併によって、その役割を発揮できない現実があること。「コスト優先から命優先へ」国や地方自治体を変えるため、『提言』を活用して、自治体交渉や住民懇談をおこない、住民とともに要求運動を進めていきたい。

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