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都市と農村の協働に向けて −長野県の取り組みに学ぶ−

堺市職員労働組合自治研部長 中村晶子

「小さくても輝く自治体フォーラム」をきっかけに

 2006年11月24日、大阪自治体問題研究所の主催で、地方自治・財政再建をテーマに長野県職員との交流会がおこなわれました。

 大阪自治体問題研究所と長野県の「浅からぬ縁」を振り返ってみましょう。2004年11月、群馬県上野村で第4回「小さくても輝く自治体フォーラム」が開催されました。大阪研では第2回より毎回「なにわ応援隊」を派遣していますが、上野村では、大阪研の宿舎に長野県泰阜村松島村長や県市町村課長の吉澤さん、喬木村の横前さんなど長野県関係者のみなさんをお招きし、夜を徹して独自の交流会をおこないました。

 その際、地方自治や財政をめぐる議論の中で、都市と農村が問題意識を共有し、協働の取り組みをすすめていくことが、21世紀の地方自治を切り開く鍵であることが、共通の思いとなりました。その後、05年高石市、06年堺市で開催した「自立をめざす都市自治体フォーラム」でも、講演者やパネラーとして長野県のみなさんに多大なご協力をいただき、交流を深めています。

 今回の交流会は、06年4月から9月まで長野県に国内留学されていた森裕之先生(立命館大学)のコーディネートによるもので、前市町村チームリーダー(市町村課長)で、2006年11月から長野県下伊那地方事務所地域政策課長の林さん、財政課長の関さんの二人が参加されました。田中前知事のもとでの長野県の財政再建、特に公共事業改革や市町村支援の問題について白熱した議論がおこなわれました。

入札制度改革と公共事業評価

 まず、関さんから長野県の行財政改革と財政再建のあらましについてお話がありました。長野県では、90年代、特に98年の冬季五輪に向けた開発ラッシュで、公共事業費を大幅に増加させ、県債残高はピーク時の2000年で1兆6000億円、起債制限比率は全国ワースト2となるなど、借金による公共事業に依存した行政運営が続けられてきました。

 2000年10月、「脱ダム宣言」に象徴される、公共事業依存からの脱却を公約とした田中康夫知事の就任後、本格的に公共事業改革に着手することになります。02年度に財政改革推進プログラムを策定、以下の6つの目標のもと改革がすすめられました。

 (1)赤字基調の財政構造から脱却し、持続可能な財政構造を創る
 (2)公共事業により「社会保障」を行う歳出構造から脱却し、真に安心できる社会システムを創る
 (3)総花的な事業展開から脱却し、真に必要な分野に重点的に財源配分する構造を創る
 (4)国庫補助金に依存した高コスト財政システムから脱却し、より効果的な財政システムを創る
 (5)既得権益や既存制度の枠組みから脱却し、意欲ある県民の活動を支える社会を創る
 (6)旧来型の仕事の進め方から脱却し、効率的な行財政運営の仕組みを創る

 この結果、02年度から06年度までの5年間で、公共事業費を49・3%、県単独事業費を53・2%削減するなど投資的経費の大幅削減を実現させました。

 大胆な公共事業改革の柱は、入札制度改革と公共事業評価にあります。工事成績や技術者の数、地域貢献などを県独自の指標で評価する総合評価落札方式の導入により「談合が困難な」制度を導入、落札率を大幅に低下させると同時に、構造的な仕組みの構築によって政治と業者の結びつきを完全に断ち切ることに成功しました。

 また、公共事業評価担当を置き、県民生活に欠かせない社会資本か否かを基準に、県民満足度やニーズを点数化し、森林関連など「伸ばす分野」とダム建設など「削る分野」のメリハリをきかせながら、徹底した事業の取捨選択と箇所付けの透明化がおこなわれました。

 公共事業費の大幅削減により、雇用や地域経済を公共事業に依存していた建設業界への対応が問題になりました。これに対しては、建設会社が「宅老所」を開設するなど、田中知事が21世紀型の新たな労働集約的産業として重視した「福祉・医療・教育・環境」分野への業種転換と雇用の吸収を促進する施策が同時に進められました。このように、単なる公共事業の総量抑制ではなく構造的な転換をめざした点に長野の公共事業改革の特徴があります。

 現実には、建設会社の倒産が相次ぐなど、田中前知事のラディカルな改革のスピードに対し、批判もあったといいます。しかし、2006年9月に就任した村井知事も入札制度改革の継続を表明するなど、公共事業をめぐる構造的な転換は、後戻りを許さない「仕組み」として県政に定着しています。

市町村の自治と自律を支援する県の役割

 続いて、林さんが、長野県の市町村支援事業について報告。長野県では県内81の自治体に対して、(1)行政改革支援(2)財政健全化支援(3)税収確保支援(4)地域づくり支援の4つの分野を中心に市町村行財政運営サポート事業をおこなっています。

 一例をあげれば、スキー場建設の借金で実質公債費比率が33・3%と大変な財政危機に陥った王滝村や、人口741人の清内路(せいないじ)村に、県の職員が派遣され、村の職員や住民と一緒に財政再建に取り組んでいます。また、県内10の広域連合の活用や、地域の自治力を高めるための「コモンズ」支援事業など、合併に邁進するのではなく、県内市町村の自治を発展させる立場で、「自律」を進める物的・人的支援を県の役割として、明確に位置づけている点に特徴があります。

 大阪府では考えられないことですが、市町村への県職員派遣(06年度は136名)は原則、県が給与負担をしています。「天下り」ポストではなく、市町村行政の第一線に配置されることにより、県職員は現場の経験を積むことができ、市町村は専門的知識を持った人材を得ることができます。

 合併を市町村に押し付けることはせず、独自の路線を歩む長野県ですが、林さんは「合併も視野に入れてすすめることは必要」と言い、「広域連合」の限界についても指摘されました。広域連合の先進地である長野県でも、広域連合で行っているのは、介護・ごみ処理など比較的近年行政需要が拡大、もしくは発生した事務が多く、なかなか既存の事務の共同化がすすまないそうです。それに加えて、基本的な事務を手放すことには抵抗感が強い首長の意識の問題や、自治体議会と広域連合との関係など、現状の制度のもとでの限界を感じる点について、率直に述べられました。

地方自治の未来を拓く都市と農村との協働

 お二人の報告を受けた討論では、国の地方構造改革の動きに話題が及びました。住民の立場に立った改革を進めれば進めるほど、国との関係で縛られることが多く、国の施策との矛盾も浮き彫りになります。例えば、建設業従事者の業種転換の問題でも、日本の失業保険や職業訓練制度の貧困さがネックとなっていますが、これは長野県だけで解決できる問題ではありません。

 道州制への動きが強まる中、府内で政令指定都市や中核市が次々と誕生し、大阪府の役割が空洞化しつつあるように見えます。しかし、長野県改革の実践を学ぶ中で、市町村の自治や自律を発展させるために都道府県が果たす役割の重要性を改めて感じました。

 今回の交流では、中山間地の小規模自治体が多い長野県の現状や改革課題を、都市部の自治体労働者の目で学び、考えました。このことは、改革のヒントを得られるばかりでなく、異なった条件のもとでの「自治」のありようを通じて、自分たちのまちの「自治」をより深く掘り下げるきっかけになります。そして、今再び新型交付税等で狙われている都市と農村の分断を許さず、都市と農村の協働による21世紀型地方自治を展望する上でも大変有意義なものでした。

 2006年2月3日〜4日、宮崎県綾町で「第8回小さくても輝く自治体フォーラム」が開催されます。今回も大阪研では「なにわ応援隊」を結成し、現地の自治体関係者と交流する予定です。そちらへの参加をお勧めして、報告を終えたいと思います。

(参考)

 ○吉澤猛「長野県内自治体における『自治体内分権』の取組みと課題」(『信州自治』2005・7)
 ○森裕之「財政改革による社会経済システムの転換―長野県の包括的公共事業改革を事例に」(『地域開発』2006・5)
 ○「第1回自立をめざす都市自治体フォーラム」報告集(大阪自治労連ホームページ参照)

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