研究会・調査活動  >  主催研究  >  税制研究会  >  佐藤・古市『租税抵抗の財政学』「第4章 財政への信頼をいかに回復するか」 [2015.11.12]

 第4回税制研究会は10月19日に開催、「租税抵抗の財政学」第4章を、会員の渡辺清志さんが報告し討論しました。女性会員が一人増え、ちょっと華やいで参りました。討論のポイントを鶴田廣巳代表にまとめてもらいました。ご参考になさってください…。

 次回研究会は、12月9日pm6:30〜 研究所会議室で第5章「人々を排除しない普遍的な財政制度」を松本さんが報告します。

 人々を排除しない財政って何でしょう?終了後も楽しみにお出かけ下さい。


討論のポイント   代表 鶴田廣巳
佐藤・古市『租税抵抗の財政学』「第4章 財政への信頼をいかに回復するか」

○ 本章の課題は、章のタイトルに表現されているように、財政や政府にまったく信頼をおけず、したがって増税に対して抵抗感の強い日本の現状に照らして、外国での経験や実態を踏まえて、そこからどのような教訓を引き出せるのかを検証することです。そのため、本章では、主としてイギリスとスウェーデンを対照させながら論じていますが、前者は新自由主義的政策により経済・財政の再生も国民生活の安定も実現できなかった国の典型例として、後者は反対に普遍主義的社会保障政策により国民の租税抵抗を招かずに経済・財政の再生を達成するとともに国民生活の安定を実現した国の典型として紹介しています。

○ イギリスは「ベバリッジ報告」に象徴されるようにかつては福祉先進国、あるいは地方自治の母国といわれてきましたが、第2次大戦後、経済が低迷するなかで70年代後半以降は「金融ビッグバン」を実行し、サッチャー政権のもとでアメリカのレーガン政権と並んで厳しい新自由主義政策を推進してきました。サッチャー政権は、結局、人頭税の導入に対する国民の反撃の前に退陣を余儀なくされました。

政権に返り咲いた労働党政権はニューレイバーと呼ばれる政策をとります。ベバリッジ型の「普遍主義」が持っていた「選別主義」的な弱点(ベバリッジの社会保険計画がうまくいくには経済成長によって大量に雇用が生まれることが前提であったが、戦後イギリス経済の低迷は失業者を増加させ、社会保険制度から排除される者を増やした)が露呈したため、ニューレイバーはニューディール・プログラムと呼ばれる就労支援策のほか、勤労税額控除の導入、自動給付の増額などを積極的に進めていく。いわゆる「ワークフェア」という政策です。しかし、人頭税に対する国民の反発の強さから労働党は増税を前面に出すことができず、むしろ減税を行うことで「持続的な経済成長」を測ろうとしました。しかし、財源の保障なき成長政策は不況により行き詰まります。

現在のキャメロン保守党政権は、社会保障費の大幅な削減を中心とする財政再建路線をとる一方、法人税率の引下げや住宅購入を促進する政策等により経済成長の促進を図ろうとしていますが、賃金の相対的な低落にみられるような「生計費危機」の広がりにより、成功の見込みは乏しいのではないかとみられます。国民経済の内発的発展を欠き、選別主義を強める社会保障削減政策を進める政策では、展望を切り拓くことは困難なのです。

○ これに対して、スウェーデンは普遍的な公共サービスの給付構造と低所得層をも含む全所得層への所得課税の組み合せにより、財政の再分配機能を確保し、国民からの政治的な支持を勝ち取ってきたところに特徴があります。スウェーデンでも1960年代末から1980年代にかけて所得税に対する不満が高まっていました。しかし、スウェーデンでは反税運動は高まりませんでした。その大きな理由のひとつが、公共サービスに対する国民の満足度の高さにありました。医療、教育、高齢者支援などの分野で普遍的な政策が展開されていたことがその要因でした。

 スウェーデンでは、戦後、地方自治体での増税と地方歳出の増加=普遍的福祉サービスの拡大とが連動し、それが政府全体の規模を拡大させてきました。戦後の高度成長期に自治体が歳出増のための増税を積極的に推進してきたことが、スウェーデンの特徴なのです。高度成長の果実の一部を減税に回して国民の不満の緩和を図るとともに、自然増収の多くを大型公共事業を中心とする歳出増に充ててきた日本の行き方とは対照的です。

 しかし、1990年代にバブルが破たんして戦後最大ともいうべき不況に見舞われた際、スウェーデンは所得税の抜本的改革に着手するとともに、社会サービスの普遍化をいっそう押し進めたのです。91年の税制改革は「世紀の税制改革」と称されましたが、それまでの所得税が高い限界税率と狭い課税ベースによるきわめて不公平な税制であったのに対して、「二元的所得税」を導入することにより、水平的公平を回復し、租税抵抗を排することに成功したのです。これは資本所得に対する各種の優遇措置を撤廃することにより課税ベースを拡大するとともに累進税率を緩和するものでした。この改革により、それまで富裕層は借入れによる資産形成で租税負担を回避していたのですが、この抜け穴が塞がれ、税制の公平性、累進性が高められたのです。

 同時に、1990年代から2000年代にかけて児童手当の拡充、保育サービスの普遍化(4、5歳児を対象とする保育の無償化をめざした一般保育制度)、保育料の上限設定(マックスタクサ)、住宅手当の拡充、さらには介護サービスなどの対人社会サービスの拡充が図られたのです。

 北欧諸国の租税制度では、社会保障給付の大部分に課税することで課税ベースを拡大しています。課税対象となる現金給付は年金、疾病・活動補償金、両親手当、他方、課税されない現金給付は児童手当、住宅手当、社会サービス手当などです。低所得層は課税されない現金給付が相対的に多く、高所得層は課税される現金給付が多いのです。そのため、すべての国民にサービス給付、現金給付が普遍的に保障されることで、国民の間に特定の階層だけに給付が行われる場合と比べて対立が起こらなくて済む一方、高所得層は課税により相対的に高い租税負担を受けることで再分配と累進性が確保される仕組みとなっているのです。

 北欧諸国の経験は、普遍的な社会保障給付の保障によって、租税負担が国民の福祉向上に還元されているという実感に裏付けられているのがゆえに、増税に対する抵抗感が少ないのです。租税負担率そのものはOECD諸国のなかで最低水準であるにもかかわらず、日本では増税に抵抗が強いのですが、その原因は、国民の間で政府や与党などの政治家に対する不信感が強く、増税が結局、無駄遣いにより国民の便益に還元されないことを肌で知っているからでしょう。

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