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議員・自治体労組役員向け集中講座
 自治体改革の争点
  ― 地方分権・介護保険・まちづくり・財政危機を解く

 11月25日と12月2日、「自治体改革の争点 地方分権・介護保険・まちづくり・財政危機を解く」と題して集中講座が行われ、地方議員を中心に50名が受講されました。活発な質疑応答も交わされ、熱気にあふれていました。以下、講義の大要をご紹介します。

◎ 第1講「地方分権一括法の読み方」   重森 曉・大阪経済大学教授

 分権一括法の成立に帰結した今回の「地方分権化」の動きは、戦後改革期、革新自治体高揚期に次いで戦後第三回目。

 分権一括法の主な内容は、機関委任事務の廃止であったが、結局、自治事務の比率は当初より低下し、法定受託事務の比率が45%も占めることになった。駐留軍用地特措法による代行署名は国の直接執行事務となり後退した。それらの背景には中央省庁の官僚の抵抗があった。

 自治体に対して国による「壮大かつ詳細な関与システム」が確立された。自治事務については、「助言勧告」から「是正の要求」までの4類型。法定受託事務は「助言勧告」から「代執行」までの7類型と従来の機関委任事務とほとんど変わらない。しかし、法定受託事務にも「条例制定権」が及ぶ。その意味では自治体に住民の意見を反映させた政策の形成能力がいっそう問われる。同時に議会の権限も高めていくことが求められ、例えば議決権を追加する条例をつくり、福祉計画などの各種行政計画も議決事件としていくことが重要である。

 権限委譲の大さな点では都市計画に関する権限が自治事務となり、市町村の都市計画審議会の設置が法制化された。なお、名称や中身はかなり自由になり、地域の特性を活かすことが可能になった。

 そのほか、町村合併の促進への各種誘導措置や地方議員定数の削減等も盛り込まれた。議案提出要件の緩和は大いに活用すべきだ。税財源委譲はなく、若干の課税自主権(法定外目的税等)が拡大された。また、住民自治の充実という点では直接請求制度の改革や住民投票の制度化などについては全くふれられなかった。

 日本の地方自治は「柔構造的分権」への改革が求められる。第一は民主主義と課税権の強化で、所得税・住民税の共通税化する改革。第二は「土建国家下請業」的自治体からの脱却。公共投資の権限を大幅に地方に委譲し、住民参加でまちづくりを進める。第三は住民自治の制度化。大都市では都市内分権化が必要。

 分権一括法をよく検討し、その積極面を大いに活用していくことが重要である。

◎ 第2講「介護保険の評価と対策」   藤井伸生・華頂短期大学助教授

 介護保険の本質は、介護問題対策において資本と国及び自治体の負担を回避し、国民の自助・相互扶助に転嫁するところにある。介護保険法第1条には「国民の共同連帯の理念」とうたっている。

 介護保険の導入で国の介護費用負担比率は現在の50%から25%に低下する。自治体も同様に負担率が低下する。他方、被保険者は保険料負担と1割の利用者負担がある。企業負担は他の社会保険より大幅に少ない。介護保険創設の意図は医療保険の赤字を解消するというものだが、企業負担を拡大して医療保険は拡充するのが基本だ。

 介護保険は社会保障・社会福祉構造改革の第一弾である。医療分野では、医療保険の国保化で企業負担をなくすことをねらっており、介護保険と同様に包括化し医療費に上限をはめる。福祉では措置から契約への改悪が予定されている。公衆衛生では福祉事務所との「統合化」によって管理事務化し、保健婦の地域活動が軽視されている。よりましな介護保険に改善することが今後の総改悪路線に重大な影響を与える。

 介護保険制度導入にあたっての焦点は、以下の7点である(1)実態を反映した要介護認定にする。自治体自らが調査を行うことが重要。(2)対象者の立場での介護サービス計画策定。自治体が公的責任を果たし居宅介護支援事業者になるべき。せめて介護サービス計画作成に自治体が援助をする。(3)真の選択権保障にはサービス供給量の整備が不可欠。(4)低所得者の保険料・利用料減免措置の拡大。(5)介護保険は介護保障の一部にすぎない。「自立」と認定された人は「老人保健福祉計画」の充実によって対応すべき。国の「介護予防・生活支援サービス事業」の活用。(6)非営利原則のサービス事業者を優先させる。企業は利潤追求のために人件費を節約したり、関連商品の販売で利潤追求を行う。(7)第三者による監視・勧告がでさる苦情処理システムの確立−オンブズパーソン制度の確立。

◎ 第3講「公共事業の見直しと市民本位のまちづくり」   中山 徹・奈良女子大学助教授

 日本の建設投資は、GDPの1割強で他の先進国の2倍。公共事業を通じて利益誘導型政治と結びついている。公共事業が失業対策の不十分さを補っている側面もある。日本の公共事業は絶対額の大き(その裏面として社会保障の低さ)が特徴である。

 最近の動向では、橋本内閣の6大改革は、ある面では新保守主義の理想であったといえる。財政再建の道筋がつくまではある程度公共投資を削減するといい出した。ただ、「経済構造改革」に資する公共事業(国際空港、高速道路等)に「重点化」した。公共投資の減額予算を約10年ぶりに組んだが、消費税の引さ上げ、医療費負担の増額とあいまち個人消費が低迷、景気が大幅に後退。

 小渕内閣に代わって財政構造改革を凍結し、公共投資の拡大が一気に進む。小渕内閣の公共事業政策は3点。

(1)都心部の遊休地の再開発が重点課題(不良資産の流動化)。(2)公共事業額の拡大(国債依存度は43%にのぼる)。(3)自治体財政の動員。

 今後の公共事業再編の方向は、遊休地対策と都心部の再編成と幹線交通網整備。多国籍企業のための基盤整備が背景にある。

 自治体の公共事業もそれに村応して、中心市街地活性化に重点化している。手法は従来の再開発の手法であり、これで活性化するとは思われない。

 財源対策としては、従来第三セクターですすめたが破綻したので、これからは財政再建と公共事業の拡大をすすめる切り札としてPFIが急浮上している。12月に国の基本方針がでる予定。それを受け、国や自治体が何をPFIですすめるかを盛り込んだ実施方針を決める。日本のPFIはイギリスと違って範囲が広く、ごみ焼却場、社会福祉施設をはじめ行政のほぼ全分野を村象としている。第三セクター以上に問題が多い。契約期間が20年といった長期間にわたり、契約内容を変更する場合、自治体が損害を被ることになる。

 公共事業の評価システムが国・全都道府県・政令市で導入された。実態は公共事業を継続するための「かくれみの」になつてしまっている。大阪府でも同様である。

 公共事業改革の方向は、開発型から改善型の公共事業への転換、公共事業の民主的評価と時間をかけた市民参加だ。地方分権との関係では市町村の都市計画審議会が認められた。特別用途地区の指定を自治体がでさるようになつたので活用できる。

◎ 第4講「地方財政危機の現状分析と対策」   森 裕之・大阪教育大学助教授

 現在の地方財政危憶の特徴は、(1)東京や大阪など大都市圏を中心に財政悪化が進んでいる。とくに府内市町村も財政危接が進行している。(2)表面的には赤字団体が少ないが、これは地方債の発行等によって歳入が確保されているためであり、内実は借金依存体質が進んでいる。(3)地方公社・第三セクター、地方公営企業の財政危機が同時進行している、ことである。

 現在の地方財政危憶の要因は、(1)国の景気対策に乗じた公共事業の拡大(補助事業から単独事業へ転換、起債許可優遇とその元利償還の交付税措置)。(2)国の民活政策に応じた安易な第三セクターの設立。(3)バブル経済崩壊による税収減。(4)国の減税政策の影響、の4点があげられる。

 これに村して、自治体は次のような政策対応をしている。(1)外部委託の推進(給食、保育、清掃等)。(2)助成措置の縮減・廃止。(3)職員採用数の減少。(4)職員給与の削減。(5)事業評価システムの導入。(6)企業会計方式の導入。(7)PFIの導入。

 財政的裏付けのない議論は「絵に描いた餅」であり、そのためには財政分析を行う必要がある。人手する資料は、(1)「決算カード」(2)「地方財政状況調査表」(3)「決算書」(4)「類似団体別市町村財政指数表」(5)「市町村決算状況調」(6)「地方財政白書」。

 財政諸指標のうち、経常収支比率については公債費など中身をみることが大切。債務負担行為額のうち土地開発公社の土地購入が多いので注目が必要である。

 96年度の決算カードを使って、羽曳野市の財政分析を類似団体と比較して行った。歳入では固定資産税等の地方税の比率が低く、歳出では扶助費が高い、補助費等が大さい等の特徴がある。目的別歳出では総務費、民生費、教育費が大きいが中身の分析が必要。さらに自治体財政の姿は時系列でみることが重要で、交野市の例では民生費と教育費が突出している年があるが、これは「箱モノ」の建設である。

 財政支出の基本原則は以下の3点。(1)住民の基本的人権を支える生活環境を維持・発展させる。(2)公平・平等の原則にしたがった公共サービスの実施。(3)効率的な財政支出 ― 生産・サービス性を最大にし、かつ住民のニーズに合わせる。

 公共サービスに村するニーズは住民参加や住民アンケートによって把握していくことが重要。交野市でアンケートを行ったら建設費180億円の体育施設に村する市民全体の税支払意志額の試算額は約10億円となつた。これは財政支出が非効率に行われた典型例だ。

 これからは「攻めの公共サービス」を実践していくことが必要。理念を実質化していく努力がいる。公共サービス間の比較を行うこと ― 福祉施設をつくるのか、体育施設をつくるのか、アンケートでニーズを把握することが重要。さらに市民活動団体との協働が必要。

(以上 文責 織原)

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