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第9次岸和田市政白書 財政問題中間報告

2章 財政健全化を市民とともに 

 1節 市当局による財政健全化の取り組みと問題点 

(1)市の「財政推計」と健全化の取り組み

 岸和田市は、1999年12月に2009(平成21)年度までの財政の見通し(「財政推計」)を発表した。そのなかで、3段階の名目経済成長率(0.00%、1.75%、3.00%)を想定し、それぞれのケースごとに2009年までの財政指標の見通しを算出した。それによると、最悪のケースでは2005年度に、最善のケースでも2007年に財政再建団体転落ラインである実質収支比率がマイナス20%を超え、財政再建団体転落は免れないという。

 さらに岸和田市は7月に、1999年度決算数値にもとづき名目経済成長率を1.75%に設定して「財政推計」を修正した。その結果は、事態がいっそう深刻になっていることを表すものとなった。すなわち2003年度に実質収支比率がマイナス27.0%となり、1999年12月の財政推計よりもさらに3年早く再建団体転落ラインに達する見通しとなった。

 2000年10月に発表された『アクションプラン』(『財政健全化3カ年アクションプラン−平成13年度に向けて−』)は、この7月修正時点の推計にもとづき2001年度に向けた健全化計画をまとめたものである。

(2)位置づけ・責任体制が不明確な健全化チームと『アクションフラン』

 『アクションプラン』は、策定に至るまでに次のような経過をたどった。2000年4月に既存の職制機構とは別に4名からなる財政健全化チームが設けられた。同チームは、収支ギャップを埋める方策を1年間の検討期間を経て市長に報告することを目的とした。財政健全化策を検討しつつ、全職員に市財政の実態を説明する会議も開いた。7月には財政課がまとめた1999年度決算数値に基づき、財政推計をやり直し(7月時点修正)、これにもとづき2001年度予算に向けた方策をまとめたものが『アクションプラン』である。当初の予定では、『アクションプラン』は中間報告としての性格をもち、さらに12月には最終報告をまとめる予定だった。しかし、『アクションプラン』によると、今後は2005年度までの5カ年を射程に取り込みつつ、3カ年のアクションプランを策定するとしている。

 しかし、健全化チームや『アクションプラン』そのものが、財政の健全化という市政の重要課題のなかでいったいどのような位置と役割を占め、どのような責任を負っているのかが明確でない。臨時的・特命的な職制機構である健全化チームがとれほどの権限をもった組織なのかもはっきりしていない。

 第一に、健全化チームは市の健全化の取り組みのなかでどのような位置を占めているのだろうか。『アクションプラン』によると「今回のプランが事務事業の規模縮小による減量経営や市民への負担増といったことに止まることなく、市民との協働による新たなまちづくり、行財政システム構造の再構築という平成9年3月策定の本市行財政改革大綱の基本精神に則るとともに、市民への情報公開・情報の共有を前提とした行政評価システムの構築、21世紀に向けた本市まちづくりをイメージしつつ取り組むものとします」と述べている。健全化チームはそのような方向を出すまでの任務を負わされているのか。それとも当面の収支ギャップを埋めるための緊急対策をつくるだけの組織なのか。既存の企画・財政はもちろん事業部門との関係はどうなのか、不明瞭である。

 したがって第二に、今回の『アクションプラン』で打ち出した歳出削減と歳入確保の取り組みの実行にどこが、どこまで責任を負うのか明確でない。例えば、歳出削減にむけてさまざまな市単独扶助費の見直しや、使用料・手数料の引き上げを打ち出したが、その内容はどの程度担当課と協議が積まれ、合意がされたものか、定かでない。もし、この点が欠けていれば最悪のトップダウン方式と言わざるをえない。また、関係する住民への説明は担当事業課が担うことになっているが、関係住民との話し合いがうまくいかなかったときはどうするのか、結果は担当事業課の判断に委ねられるのか、それとも健全化チームがその点にまで責任を持つのか。

 第三に、『アクションプラン』のような形での「取り組み内容」の発表の仕方そのものに問題がある。とりあえず平成13年度分の帳尻あわせのためのプランを出しているがこういう出し方は良くない。『アクションプラン』は将来の行財政のあり方を展望せずに、とりあえずのシノギ策だけを出した。将来方向をださずに、「アクション」といえるほどのものでない「小手先」の対策をなし崩し的に積み重ねるやり方はやめるべきだ。計画性のなさを自ら立証しているようなものである。職員参加・住民参加で時間をかけて方策を考えるべきだ。仮に、そのために平成13年度予算編成に間に合わず、平成14年度にずれ込んだとして、しっかりとした議論と対策ができあがりさえすればそのときでも遅くない。

(3)『アクションフラン』による財政推計(7月時点修正)

 昨年12月から今回の『アクションプラン』に至る過程で、市財政の困難に直面した岸和田市が、「このままゆくと」との危機感から「財政推計」を作成したことは評価できる。これまで岸和田市は、総合計画の実施計画のなかで「概算事業費」などを示してきたことはあったが、財政が全体的にどう変化するのかといった財政見通しは作成してこなかった。「財源は何とかなる」時代であったのかもしれないが、計画性に欠けた財政運営をしてきたと批判されてもしかたない。そういう状況に比べれば、「財政推計」を作成したことは、不十分とはいえ一歩前進と評価したい。

 『アクションプラン』による財政推計では二つの点が指摘できる。

 第一に、市財政の見通しが1999年12月推計よりもさらに厳しいものとなった。『アクションプラン』は最近の景気回復の動きを受けて名目経済成長率を1.75%とした。1999年12月で示された三つのケースのうち中位のケースと同じである。この推計によると2003年度に実質収支比率がマイナス27.0%に達し、財政再建団体転落ラインのマイナス20%を突破する。これは99年12月推計が予測した2006年度(マイナス21.9%)よりも3年早いものとなった。

 なぜ、わずか8ケ月の間にここまで下方修正されることになったのか。最大の理由は、税収見込みが極めて大幅に落ち込みそうなことにある。1999年12月予測では285億円を超えていた税収が、『アクションプラン』では265億円へ21億円近くのダウンとなった(図表4)。さらに、1999年12月の「財政推計」時点では税収の年間伸び率を2.5〜2.6%程度と見ていたが、『アクションプラン』ではわずか0.6%台の伸びに落とした。この結果、2001年度で26億円、2002年度32億円、2003年度38億円、2004年度44億円、2005年度51億円、合計211億円の下方修正、すなわち税収減の見込みとなった。

図表4 岸和田市財政推計での税収見込み  (単位:百万円)
年度 98(決算) 99(決算) 2000 2001 2002 2003 2004 2005
99年12月の推計(1) 未確定 28,550 29,264 30,004 30,773 31,571 32,399
伸び率       2.5% 2.5% 2.6% 2.6% 2.6%
アクションプラン(2) 27,752 27,436 26,483 26,646 26,812 26,984 27,159 27,340
伸び率   -1.1% -3.5% 0.6% 0.6% 0.6% 0.6% 0.7%
修正された額 (2)−(1) -2,067 -2,618 -3,192 -3,789 -4,412 -5,059

 なぜこれほどの下方修正になったのか詳細な説明はない。ただ、市税の推計基準が過去5年間の市税の伸び率の平均値を用いていることから判断すると、本(2000)年度の税収見込みが285億円から264億円へ激減し、平均伸び率を押し下げたのが影響しているものと推測される。なぜ本年度の落ち込みがそれほど大きいのかの説明がなければならないはずだが、2000年度の決算見通しは明記されていない。これでは、われわれを説得させることはできない。

 また、対前年度比0.6%台という伸び率は低すぎないかという疑問もある。名目成長率を1.75%に想定するなら市税の対前年度伸びが0.6%というのはいかにも低すぎはしないか。もし税収の伸びがもっと大きければ厳しい見通しはいくぶん媛和されるはずだ。詳細な説明がほしいところである。

図表1 第二に、『アクションプラン』では一般財源の推計が新たに示された。一般財源の推計をおこなうことは、使途が特定されない一般財源を市がどこにふり向けようとしているのか意思が明確になる。「財政推計」によると、人件費への一般財源の充当率が34%(1999年度)から32%(2001年度)、20%台(2004年度)へ抑えられてゆこうとしているのが目につく(図表5)。扶助費も1999年度決算に比べ減少するが、公債費は増え続け一般財源充当率も17%前後の負担が続く。これらの義務的経費は公債費が増えるものの人件費や扶助費が抑えられることによって全体としては減少する。一方、普通建設事業費の一般財源充当率は1990年代後半の水準を維持するものとなっている。これに対して、その他の経費(準義務的経費)では、繰出金は、下水道事業への繰り出し、新設された介護保険への繰り出しなどで16%(1999年度)から19%(2005年度)へ増え、補助費等も下水道、清掃などの事務組合への補助・負担金で9%(1999年度)から13%(2005年度)へ増える。

 このように岸和田市の意思は、人件費や扶助費の義務的経費を抑制的に見込みつつ、普通建設事業費は一定額を確保し、その他の準義務的経費は増加させようというのである。同時に、普通建設事業(公共事業)の後始末である公債費はジリジリと増えてゆく。

(4)『アクションフラン』によるリストラ計画

 『アクションプラン』は「財政再建段階への転落を何としても回避するため、予測されている巨額な財政不足に対するため」のものとして作成された。『アクションプラン』は3カ年間の健全化計画を作成することにしているが、今回示されたのは2001年度分だけである。とりあえず、このプランによって来年度予算編成を進めようということのようである。

 『アクションプラン』による2001年度の取り組みによって23億円余りの収支赤字が減少することになっている(図表6)。その内訳は支出の削減が17億円、歳入の確保で6億円である。内容面でみると、人件費関係では、職員の定期昇給の2年間ストップなどで4.6億円の削減が盛りこまれている。市民サービス関係では、市単独の見舞金などの見直し、使用料や手数料の引き上げ、ごみ有料化などで市民負担が増えるメニューが並んでいる。普通建設事業費についてはあけぼの住宅建て替え事業の第2期分を先送りする以外に、一般財源充当額の一定額を留保し、5億円を削減するとしているが、具体的事業名は明らかにされていない。

図表6 平成13年度 健全化実施後の収支見通し  (単位:千円)
項目 金額
歳出の削減 1,712,044
 人件費の抑制 458,481
 事務事業の見直し 228,599
 補助金等の見直し 53,067
 操出金等の抑制 471,897
 普通建設事業費の抑制 500,000
歳入の確保 605,390
 受益者負担の公平化 201,006
 保有地の処分 300,000
 ごみ有料化の実施 104,384
合計 2,317,434
実施前の単年度財源不足額 3,008,191
実施後の単年度財源不足額 690,757

 繰り返しになるが、『アクションプラン』には、経費の削減をしたあと、どのような行政をつくりだしてゆくのかという健全化計画の展望が示されていないために、結果として単なる収支あわせの計画になっている。さきほどもふれたように、『アクションプラン』は「事務事業の規模縮小による減量経営や市民への負担増といったことに止まることなく、市民との協働による新たなまちづくり、行財政システム構造の再構築という平成9年3月策定の本市行財政改革大綱の基本精神に則るとともに、市民への情報公開・情報の共有を前提とした行政評価システムの構築、21世紀に向けた本市まちづくりをイメージしつつ取り組む」と基本的立場を説明している。この基本的立場の理念に異論はないが、『アクションプラン』による健全化計画がそれにどうつながってゆくのか、その具体的道筋はまだ示されていない。減量経営と市民への負担増だけが見え、創造的なものを見いだすことができない。

 健全化チームが発足したあとチームが発行したニュースでは、「先駆的自治体であり続けるために創造的破壊」をおこなうのだと述べていた。具体的な姿が描かれていないので、はっきりしたことは言えないが、もし「破壊すべき従来のシステム」が、全国的に先駆的といわれた岸和田市の福祉や文化行政、コミュニティ行政といった施策を意味していて、これを廃止・手直ししたり、骨抜きにしたりすることを目的にしているのなら、まさに自治体リストラ計画であり「NO」といわざるをえない。今回の『アクションプラン』がそのスタートとなるのではないか、危惧される。そのあとにどのような先駆的自治体行政像をつくりあげるのか、「先駆的自治体であり続けるための創造的破壊」のイメージを早急に示すべきである。

 そのことが今回の財政健全化対策が、国が推進する自治体リストラ(公共部門の民営化・市場化をはかり、社会全体にわたって市場原理を徹底する考えのもとに、国や地方自治体の業務の民営化、民間委託、公民間のコスト比較による安上がり事業、規制緩和を実行していくことをいう)であるか否かの判断の分岐点となる。岸和田市の『アクションプラン』は、現在のところ国や一部の自治体で押し進められている自治体リストラとは考え方の基本を異にしている。この点は今後の注意点でもあり、もしそのような考え方に基づく財政健全化計画であるならば許すことはできない。

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