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コールセンターの向こうにいるのは誰?  自治体の「電子化」と「市場化」をめぐって

自治体情報政策研究所・代表 黒田 充

1.電子化と進むアウトソーシング

 2003年4月、制度や手続きの問い合わせ、イベント情報や施設案内など、市民からのちょっとした質問(電話、FAX、電子メールによる)に、年中無休で8時から21時まで答えるコールセンターが、札幌市でスタートした。パソコンを使ってQ&Aデータベースから回答を検索し答えるのは、オペレーター5人と管理者1人のスタッフである。同市のホームページによれば、1日あたりの問い合わせ件数は平均で2003年10月が74件、11月が69件である。たらい回しにすることなくコールセンター内で回答できた比率は98%に達し、問い合わせをした市民からは10点満点で9.6点もの高評価を得ている(同年9月のアンケート)。が、彼(彼女)らは市職員ではない。民間企業の社員であり、コールセンターは委託先企業のフロアの一角に存在しているのだ。札幌市は、電話応対だけでなく、電話回線や交換機、ブース設備の一切合切をアウトソーシング(民間委託)しているのである。

 しかし、コールセンターは札幌市の専売特許ではない。2004年4月に山梨県でより規模の大きなものが、同様にアウトソーシングでスタートする。山梨県と県内の全市町村が参加する県市町村総合事務組合は、住民票や印鑑証明、所得証明等の交付申請などをインターネットで受け付ける電子申請システムの共同運営を始める。コールセンターは、これに伴うもので、電子申請に関する住民や企業からの電話、電子メールによる問い合わせや苦情に対応する。5年間にわたる共同運営受託事業を受注したのは、NTTコミュニケーションズ、NEC、富士通などからなる企業連合で、ITアウトソーシング事業大手のトランスコスモスがコールセンターを担当する。同社は、県や市町村職員からの問い合わせに対応するヘルプデスクも請け負っている。

 アウトソーシングはコールセンターだけに留まらない。福島県喜多方市は市役所のほぼ全ての業務システム(住基、国保、年金、外国人登録、市税申告・収納・滞納管理、予算編成・執行、契約管理、保育料等々)のアウトソーシングを進めている。2004年にはIBM系の民間企業が所有するインターネットデータセンターに全て収まり、庁舎内からサーバーコンピュータは消えてなくなるという。残るのはデータセンターにつながったパソコンだけである。

 アウトソーシングは大阪でも進んでいる。2004年4月に、人事・給与・福利厚生、財務会計、物品調達などを集中処理する「総務サービスセンター」が府庁で稼働する。府は同センターのシステム構築・運用や、職員からの問い合わせに対応するコールセンターの業務などを2008年度末までの7年間にわたり松下電器、富士通、NTT西日本による企業連合に包括的に委託(総事業費は約35億円)している。同様のシステムは千葉県庁でも「総務ワークステーション」という名称で同じく4月からスタートする。同ステーションは県職員約60人と、人材派遣大手のパソナからの派遣職員(パートも含む)約60人の計120人で構成される予定だ。なお、同社は2002年4月に設置された静岡県庁の「総務事務センター」の内部事務も受託している。

 また、大阪では2003年7月に旧富士銀行の計算センターを買収し改修する形(整備費43億円)で府立のインターネットデータセンター(eおおさかIDC)が開所された。同年12月時点で、同センターを利用しているのは、総務サービスセンターのシステムなどを置く府など33団体で、LGWAN(総合行政ネットワーク:自治体を相互に結ぶネットワークで電子文書交換や情報共有化などに利用)のオペレーションセンターもここに設置されている。今後は、府下市町村による電子入札や電子申請システムなどの共同運営を進めている大阪府電子自治体推進協議会の拠点としても使われるようである。センターは府立ではあるが、施設運営は(財)関西情報・産業活性化センター(会長:住友電気工業相談役、副会長:大阪ガス社長、関西電力社長、松下電器副会長、大阪・京都・神戸の商工会議所の各会頭)に委託され、実際には再委託を同財団から受けた(株)大阪エクセレントIDC(NTTデータ、NTT西日本、NTTネオメイト関西、大阪ガス、新日鐵などが出資)が行っている。なお、センターの利用料金は、設置条例の範囲内で管理受託者である(財)関西情報・産業活性化センターが決め、同財団の収入として収受される。

2.e-Japan戦略と自治体の電子化・市場化

 小泉政権において、IT政策は、構造改革全体を貫く主要な柱の一つであると同時に、構造改革を推進する強力なエンジンとも位置付けられている。「2005年までに世界最先端のIT国家となる」ことを国家目標に、自治体を含む電子政府の実現を重点政策の一つに盛り込んだ「e-Japan戦略」(2001年1月IT戦略本部決定)は、2003年7月にITと構造改革の融合をさらに進展させるとして「e-Japan戦略?」に改訂された。戦略?は、行政サービスを日本の国際競争力の基盤と位置付け、外部委託などで業務効率の向上を図るとし、電子化にあたっては、民間に任せることが可能なものは民間委託することを原則としている。小泉構造改革は、自治体に市町村合併による広域化とともに、地方独立行政法人法や指定管理者制度の導入など市場化を押しつけているが、電子化についてもアウトソーシングと不可分の形で進めようとしているのである。

 総務省もまた、構造改革路線に沿って2002年5月の経済財政諮問会議に「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」を提案している。これは、複数の自治体が共同で民間企業等のインターネットデータセンターに電子申請等のシステムを置き利用することによって、自治体にITの専門職員がいなくても電子化が可能となるとともに、一自治体あたりのコストを下げることにもなるというものである。戦略?も、複数の自治体によるシステムの共同整備、外部委託の取り組みを支援するとしている。現在、ほとんどの都道府県で、こうした提案を受ける形で県と市町村による共同化のための協議会が設置され、具体化が進められている。先に紹介した山梨県市町村総合事務組合や大阪府電子自治体推進協議会もそうしたものである。

3.おわりに

 詰まるところ、政府が音頭を取って進ている自治体の電子化は、自治体の持つ住民の個人情報や行政情報を丸ごと民間企業に委ねるとともに、大手IT企業に将来にわたって利益を保証するためのものである。電子化は、市場化の先兵としての役割をも果たしているのである。IT化で職場がどうなるか、暮らしは便利になるかといった問題に関心を払うのも大事であるが、同時にその背景や狙いまで含めた点検や議論も必要であろう。

 もちろん、ITを自治体の業務やサービスに使うこと自体を否定するのは行き過ぎである。重要なのは、誰がどんな目的でITを使おうとしているのか見極めることである。ITは人類の未来をより豊かにする可能性を持った道具である。地方自治の発展にどう活用しうるのかについての積極的な議論もまた進める必要があるのではないか。

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