トップ  >  書籍・研究年報  >  地方自治の再発見 不安と混迷の時代に [2017.7.7]

地方自治の再発見
不安と混迷の時代に

加茂利男 著
自治体研究社
2017年5月発行
定価(本体2,200円+税)

序章「何が起こるかわからない時代」の始まり

はじめに

 2017年、日本も世界も、「何が起こるかわからない時代」に足を踏み入れたという感じがします。

 観測史上最大のマグニチュードの地震が、巨大津波や原発事故を誘発した2011年の東日本大震災は、文字通り何が起こるかわからない「危険社会」(U・ペック、後述)の怖さを実感させました。

 この大災害の余波のように、社会や政治にも「予想外」のできごとが頻発しました。2014年以降だけをとってみても、ロシアのクリミア併合やシリア空爆、北朝鮮の核開発の進展、イスラム風刺画を掲載したパリの週刊誌へのテロ攻撃、同じくパリでの大規模な同時多発テロが起こっています。テロは、16年にはブリュッセル、ベルリン、コペンハーゲン、二ース、トルコなどでも続発しました。EU域内では2015年だけで360以上のテロ事件が起こったといわれます(遠藤乾『欧州複合危機』中公新書)。「日に1度はテロ」の時代といっても言い過ぎではありません。

 2015年はまた、シリア、イラク、スーダン、ソマリアなどでの戦争やテロのために、100万入を超える大量の難民が発生してヨーロッパに押し寄せ、欧米に政治的混乱をもたらした年でもありました。「イスラム国」のテロは世界中に不安と混乱を広げていますが、同時に中東や北アフリカでは事実上国家が崩壊して、治安や民生が成り立たない状態も広がっているのです。
経済にも、10年前には予想もされなかった動揺が起こっています。2015年には、ギリシャの債務危機とEUからの離脱の危機が起こりました。16年6月、今度はイギリスが、EUからの自主的な「離脱」を国民投票で決めるという出来事が起こり、世界を驚かせました。

 そして……、「何が起こるかわからない時代」の到来を告げた極め付けの事件が、16年11月のアメリカ大統領選挙におけるドナルド・トランプの当選でした。「トランプ現象」については、すでに様々な議論が起こっていますし、それが今後どう展開するかは、判然としません。しかし、これはアメリカ史における異例な出来事であり、これまでの「平常状態」からの逸脱だと言わざるを得ません。

 「トランプ現象」をどうみるかと続きます。アメリカを含む世界の歴史を紐解きながら、さらに「不安」の歴史的記憶を語り、2015年の安保法制の国会前行動を語り、序章の最後に、一つひとつはちっぽけですが、不安と混迷の中に、光明のようなものも見えます。2016年夏のはじめ、テレビの報道特集番組を見ていたら、ヘイト・スピーチ対策法のことがとりあげられていました。法律ができてから初めて、川崎市でヘイト・デモが計画されたのですが、市は法律にもとついて公園の使用を不許可にしました。デモ主催者は、かなり離れた別の場所に会場を移したのですが、その会場はヘイトに反対する市民で埋め尽くされ、ヘイト・グループがやってくると警察官がぎつしり取り囲んでヘイト・デモを規制するのです。ヘイト側が、「表現の自由に対する侵害ではないか」といって警官に食ってかかったのですが、これに対して警備の警察官がなんと「これが国民世論なんだよ」というのです。ちょっと耳を疑いました。こんなことも起こりうるのだということに驚きました。民族的な差別や対立を煽る活動に反対した世論が法律をつくり、警察はその法律にもとついてヘイトを取り締まらざるを得なくなったわけです。小さな声を出し続ければ、それがやがて大きくなって、多数派になりうる。そういう意外な「予測不可能性」もこの時代ははらんでいるのだ、と思いました。

 要するに、危うさと混迷に満ちた今の世界でも、簡単に現実逃避することなく、みんなが自分の考えをもって小さな努力を積み重ねれば、それが社会を動かす力を持ちうるという、平凡といえば平凡な命題に気づかされたわけです。

 ちょっと情緒的なことを書いてしまいましたが、要するにこれがこの本のサブタイトルで表現したかったことです。このような時代感覚をもちながら、ここから後の章を読んでいただければ幸いです。と著者は言います。私自身(山口毅)も、一気に読みました。

 ぜひ皆さんもお読みください。

 

「地方自治の再発見」目次

序章「何が起こるかわからない時代」の始まり

はじめに
「トランプ現象」をどうみるか
「不安」の歴史的記憶
おわりに

第1章 混迷する世界と資本主義のゆくえー超資本主義からポスト資本主義へー

はじめに
ヨーロッパはどこへ?
「資本主義」はどこへ
おわりに

第2章 地方自治の再発見ー社会空間スクランブルの時代ー

はじめに
政治・行政区域の再編成
区域改革の2潮流ー20世紀後半の時代
合併・統合型改革ー日本・デンマーク
自立・連合型改革ーフランス
混成型改革ーフィンランド
区域改革のパターンと地方自治制度
もうひとつの改革デザイン
おわりにーグローバル時代の「地方自治」

第3章 「平成の大合併」の検証

はじめに
「平成の大合併」の結果をめぐる主な議論
「平成の合併」プレイバック
21世紀地方自治の課題
おわりにーもう一つの「ポスト平成合併」

第4章 「日本型入ロ減少社会」と地方自治

はじめに
「人口減少社会」というテーマ
日本型人口減少社会
「人口減少社会」の地域間競争
おわりに

終章 21世紀を生きる

『八月の砲声』
『危機の20年』
 『ブッシュの戦争』
政治・経済体制の拡大と分解ーもう一度「地方自治」の再発見
対話デモクラシー

《補遺》講演・地方自治と私

はじめに
「研究者たちの夏」としての1970年代
地域運動の質的変化と分権改革前史
『関一日記』との格闘
「都市自由主義」と革新自治体
分権改革の時代
市町村合併と「平成の地方自治改革」
21世紀の地方自治

あとがき


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