「大阪府政への提言」

社団法人 大阪自治体問題研究所が「大阪府政への提言」を発表 

大阪府政への提言 大阪経済の低迷、大阪府政の混迷、府財政の危機的状況のもと、このほど研究所の大阪府政研究会(代表・重森曉 大阪経済大学教授)は、「大阪府政への提言」を発表(2000年1月)しました。

 今回の「提言」は、一昨年、大阪府から出された「大阪府財政再建プログラム」を分析し、府民本位の財政再建を提言した『よくわかる大阪府財政再建プログラム』(自治体研究社、98年、本体900円)の継続研究として発表したものです。

 「提言」の内容は以下のとおり。提言の「全文」はこちらです。

1 大規模プロジェクトの見直し
 ・ 再評価システムを確立し、情報公開と府民参加で個別事業の再評価を行う、等

2 中小零細企業振興による地域経済活性化
 ・ 地域集積・ネットワーク型中小零細企業を軸とする地域経済活性化政策の推進、 等

3 府民本位の財政再建への道
 ・ 公共投資を府税収入の3割に縮減、等

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大阪府政への提言 
  大規模プロジェクトの見直し
  中小零細企業振興による地域経済活性化
  府民生活本位の財政再建への道

社団法人 大阪自治体問題研究所
大阪府政研究会  代表 重森 曉

はじめに

 880万の人々が住み、韓国やオーストラリア一国に匹敵する経済力を擁する大阪府。わが国の第二の大都市圏として、長い歴史と文化の伝統を誇る大阪府。その大阪府が今、活力を失い、目標を見失い、彷徨っている。

 1970年にはGDPの10%を占めていた大阪府内総生産は、1980年代以降8%の水準に落ち込み、低迷を続けている。バブル経済崩壊後の不況の中で、企業倒産・失業率等の経済諸指標において、大阪地域は全国的にみて最も深刻な状況におかれている。かつては、近畿圏を東京首都圏とならぶ「二眼レフ構造」の一方の極とすることが目指されたが、今や大阪圏はわが国第二の経済圏の位置を名古屋大都市圏に奪われようとさえしている。

 このような地域経済の活力の低下とともに、法人二税を中心に府税収入は大幅に落ち込み、大阪府の財政は危機的な状況に陥っている。財政の硬直度を示す経常収支比率は1998年度の決算で117.4にまで上昇し、1992年度以来7年連続全国ワースト1を続けている。98年度決算はついに120億円の実質収支赤字を計上した。府財政当局の予測では、2000年度予算における財源不足額は6500億円にのぼるとされている。

 一昨年秋、大阪府は「財政再建プログラム」を発表し、大阪府財政における財源不足は2002年度に6250億円のピークに達すると予測していた。しかし、現実にはその予測より2年早く、より巨額の財源不足が発生することになった。

 大阪府の「財政再建プログラム」は、財政危機の原因を人件費をはじめとする義務的経費の増大に求め、府職員の削減や人件費の抑制、老人医療費への公的補助の削減、社会福祉施設等への補助金の削減、公立学校の入学金等の引き上げ、市町村への各種補助金の削減等を行おうとするものであった。しかし、このような府民サービスの削減や住民負担の増大を強いる方策がほとんど財政再建につながらないことは、この一年の経験からも明らかである。

 われわれは、1998年末、『よくわかる大阪府財政再建プログラムー大型公共事業優先と住民福祉削減のからくり』(自治体研究社)を出版し、財政危機の真の原因は税収の激減の中で借金に依存した大規模公共事業を継続・拡大してきたことにあり、企業局や第三セクターが主体となった大規模開発プロジェクトを見直し、公共事業の規模を大幅に縮小することこそが財政再建への近道であることを主張した。

 今、大阪府政が混迷を深めているときにあたり、われわれはあらためての『よくわかる大阪府財政再建プログラム』の続編として、ここに、大規模開発プロジェクトの見直し、大阪地域経済の活性化、大阪府財政再建への道について、若干の具体策をふくむ提言を行うものである。

 大阪府政にかかわる人々、大阪府の行く末を憂える人々、そして大阪府民になんらかの示唆を与えることになれば幸いである。

2000年1月

社団法人 大阪自治体問題研究所
大阪府政研究会
重森 曉   (大阪経済大額教授)
植田 浩史 (大阪市立大学助教授)
中山 徹  (奈良女子大学助教授)

目次

 大阪経済の現状と再生への課題

1 大阪経済の現状
2 大阪経済再生への課題

 大阪府財政の現状と再生への課題

1 危機深まる大阪府財政
2 財政危機と大規模プロジェクト

 大阪府政への提言

提言1] 公共事業依存の「景気対策」から脱却し、地域集積・ネットワーク型中小零細企業の振興を軸とする地域経済活性化政策を推進すること。
(1) 大阪経済の潜在力の活用
(2) 企業の自主的活動への支援
(3) 企業による変化への対応とその支援
(4) 地域実態の把握と参加型政策づくり
(5) 産業担当職員の育成と予算確保

提言2] バブル型大規模プロジェクトの再評価システムを確立し、個別事業について徹底した情報公開と責任の明確化を行うとともに、府民生活の向上と地域経済の活性化につながる都市基盤整備のあり方について検討すること。
(1) 事業ごとの再評価システムの確立
(2) 計画段階の新規事業の凍結
(3) 一部着手済みの事業の休止と再評価
(4) 工事終了・破産寸前の事業の見直し
(5) 生活優先の民主的・効率的都市基盤整備

提言3] 「大阪府財政再建プログラム」を見直し、医療・福祉・教育分野の公的サービスの水準を維持しつつ、大規模プロジェクトの見直しによる公共投資の削減、行政再評価システムの確立による民主的・効率的行政の推進を軸とした新たな再建計画を検討すること。
(1) 「大阪府財政再建プログラム」の見直しを
(2) 公共投資を府税収入の3割に縮減
(3) プライマリー・バランスの確保
(4) 減収補てん債・財政健全化債運用上の留意点
(5) 民主的・効率的行政を実現するための行政再評価システム
(6) 大都市圏連合による分権的財政システム実現への努力

 大阪経済の現状と再生への課題

1 大阪経済の現状

 大阪経済の現状は、大阪経済全体の推移、個別企業の経営状況、家計の実態、雇用状況等のいずれをみても最悪の数字を示している。とくに、1995年の国勢調査ですでに6.2%と全国で沖縄に次ぐ高い数字を示していた失業率は、その後もさらに上昇している。雇用保険受給者は、1999年には9万人をこえ、被保険者数の約3%に達した(大阪府職業業務課「労働市場月報」)。

 こうした雇用悪化の原因は、<1>長引く不況による企業の廃業・倒産、<2>リストラによる解雇の増大にある。

 長引く不況は、とりわけ大阪の企業・産業に大きな影響を与えた。泉州の繊維産業は、国内需要の低迷、海外からの廉価品の輸入拡大によって、1990年代に入り急速に産地の規模縮小をよぎなくされている。北河内のエレクトロニクス産業も、国内需要の低迷、海外現地生産の拡大によって生産規模が縮小している。全国的にも有数の工業集積地域である東大阪地域においても、その集積規模が1980年代後半以降減少しつつある。消費不況の長期化や流通構造の再編によって、卸売業・小売業もその産業規模の縮小が進んでいる。

 最近発表された1998年工業統計の数値では、大阪府下の事業所数は1995年比で2851(4.3%)、従業者数で7万3941人(9.0%)、製造品出荷額等で1兆5149億円(7.1%)それぞれ減少となっている。従業者規模別にみると、従業者数30人以下の小規模層では、従業者数で6.2%、出荷額等で5.4%の減少にすぎない。ところが、従業者数1000人以上の大規模層の減少幅が大きく、従業者数で19.5%の減少、出荷額等で27.2%の減少となっている。製造業の雇用の減少を支えていた商業・サービス業の雇用も減少しており、大阪経済は深刻な雇用状況を迎えている。

 このような大阪地域の景気の悪さについては、「関西は全国に比べて中小企業の比率が高い。このぶん、産業構造の転換が遅れ、企業収益の改善が遅れ気味で、今後も急速な消費回復は期待しにくい」(「足取り重い関西景気1」『日本経済新聞』1999年11月10日)というように、中小企業の比重の高さと産業構造転換の遅れに原因があるとされることが多い。昨年末に発表された関西経済連合会の「関西経済再生シナリオ」でも強い産業の育成が強調されており、「産業構造の転換」は大阪経済の将来を描く際のキーワードとされている。

 また、時代をリードする新しい中小企業、ベンチャー企業への期待が強まっている点も最近の特徴である。昨年実施された中小企業基本法の改正は、従来の中小企業行政をベンチャー企業育成の方向にシフトさせるものであった。大阪でも、既存企業や産業の延長ではなく、新しく創業されるベンチャー企業や新産業に、大阪経済の回復と復興の起爆剤としての期待を寄せるケースが多くなっている。

2 大阪経済再生への課題

 ところで、産業構造の転換(あるいは強い産業の育成)とベンチャー型企業の育成は、ほんとうに大阪経済の再生と地域産業振興になるのだろうか。このような政策についてはいくつかの疑念がある。

 第1に、現在の長引く不況の原因が既存の産業や既存の中小企業の弱さにあると、必ずしも実証されているわけではない。従来大阪が優位性を持っていた、繊維や金属関係の素材加工型産業からの脱却が叫ばれているが、こうした産業の可能性と将来性についてつきつめた検討はほとんどなされていない。実際には、これらの分野においても、企業ネットワークの活用や産・官・学の連携によって、中小企業を中心にした新しい取り組みが進められている。多数の企業が存在し、多くの人が働くこうした分野を、どうやって活性化させていくのかが重視されるべきである。

 第2に、産業構造転換という場合、新しい産業を起こすということだけではなく、既存産業が新しい需要や分野に対応するということも含まれており、実際にはそうしたケースの方が中心になっている。むしろ、既存の企業や既存の産業の高度化をこそ重視すべきであって、新規育成の強調は、新分野への対応自体を困難にしてしまうおそれがある。

 第3に、ベンチャー企業の育成は、創業支援という点では意味があるにしても、中小企業をどのようにサポートしていくのかという本来の中小企業政策とは距離がある。ベンチャー育成といった課題に目を奪われて、現存の中小零細企業への対策がおろそかにされるならば問題である。

 時代に対応した新産業を育成したり、新しい分野での起業を支援することが、経済活性化のために無意味であると主張しているのではない。それは、あくまで経済政策の1つであり、あたかも大阪経済再生の唯1の処方箋であるかのように論ずることに問題があるということである。大阪の既存中小企業や産業はまったく競争力を失ったわけではないし、そこから再生を考えていかなければ真に大阪経済の再生には結びつかない。

 長引く不況と時代の急速な変化のなかで、大阪経済は深刻な影響を受けている。今後の展開を考えていく上で、1つの教訓となるのが阪神・淡路大震災である。大震災は、多くの人命を奪い、地域を破壊しただけでなく、地域経済を破綻に導いた。大震災によって破壊された高速道路や港湾などのハードな施設の復旧が進み、神戸空港建設などの開発プロジェクトが立ち上げられてはいるが、地場産業や地域商店街など地域産業・地域経済の再生は困難をきわめており、大震災からの復興は今なお道半ばである。大阪でも、現在の疲弊した地域経済、地域産業を真っ正面にとらえ、対応を進めていかないかぎり、新産業や新規創業を生み出す土壌自体が崩壊しかねない。現状打開の政策をどのような視点で行うのかが問われている。

 大阪府財政の現状と再建への課題

1 危機深まる大阪府財政

 地域経済の活力の低下と不況によって、大阪府の歳入における法人関係税収は激減した。1989年度において、法人2税(法人住民税と法人事業税)は大阪府税収入の60%を占めていたが、1999年度当初予算では、その半分の32%にまで比重を下げた。大阪府の法人2税収入は、オイル・ショック後の1974年度を100として、1989年度には269にまで「回復」したが、1999年度当初予算では113と、ほとんどオイル・ショック後の数値にまで落ち込んでいる。1999年度のこの数値は、東京都201、神奈川185、愛知173等と比較して大都市圏の中で最低であり、全国平均185をも大きく下回っている。

 その結果、大阪府の財政は、全国の都道府県の中で最悪の状況に陥っている。財政の硬直度を示す経常収支比率は、1992年度以来7年連続全国ワースト1であり、1998年度決算ではついに117.4にまで上昇した。これは、人件費・扶助費・公債費などの義務的経費だけで経常的な一般財源を上回り、赤字が発生するという状態である。また、地方債残高は98年度末で3兆5890億円に達し、一般財源に占める地方債元利償還の割合を示す公債費比率は、1992年度の7.4%から98年度には11.7%にまで上昇している。

 1998年度決算では、大阪府の実質収支は17年ぶりに120億円の赤字を計上した。この赤字額は、東京都の1067億円、神奈川県の303億円、愛知県の228億円とくらべて比較的小さかった。しかし、これは財政調整基金等によるやりくりの結果であり、実際には2166億円の赤字というのが実態である。財政当局の試算では、2000年度の財源不足は6500億円にのぼるとされている。98年9月に発表された「大阪府財政再建プログラム」では、大阪府の財源不足は2002年度に最大の6250億円に達するとされていたが、その予測をさらに上回る財源不足が2年早く生じているわけである。

2 財政危機と大規模プロジェクト

 なぜこのような財政危機に陥ったのか。われわれが『よくわかる大阪府財政再建プログラム』(自治体研究社.1998年)で明らかにしたように、「地方税収の大幅な減収という状況の中で、国の誤った『景気対策』に追随するかたちで、また、バブル期につくられた大規模プロジェクト計画を推進するために、借金に依存しながら公共土木事業をやり続けてきたこと」に、財政危機の最大の原因があった。

 ところが、大阪府の「財政再建プログラム」は、大規模プロジェクトの見直しを真剣に行うことなく、巨額の公共投資を継続しつつ、老人医療費助成の削減、社会福祉施設への補助金の削減、公立高校授業料の引き上げ、市町村補助金の削減など、医療・福祉・教育の分野における施策の縮小を行おうとするものであった。これは、府民の命とくらしを守るという地方自治体の本来の役割を放棄し、当面の景気対策の名に隠れて、開発のための大規模プロジェクトを継続しようという全く転倒した姿勢である。

 大阪府当局の説明によると、大規模プロジェクトはいわゆる第三セクター方式で行われており、大阪府はわずかな出資をするだけで、一般会計の財政負担は大きくないということである。しかし、実際には、事業主体が府と民間の共同出資による第三セクターや企業局であっても、道路や公園などの関連公共事業は大阪府の財政負担で行われる。たとえば、りんくうタウンの造成地の分譲は大幅に遅れているが、1998年3月末までに契約が結ばれた金額1869億円のうち道路・公園などの公共施設は最も多い543億円であり、契約率も95%で、商業業務地の15%、空港関連産業の34%、工場団地の36%などにくらべてきわめて高くなっている。第三セクターの事業の失敗を大阪府財政が真っ先に負うかたちとなっている。このような大規模開発がらみの公共事業が府の公共投資を膨張させていることは疑いないところである。

 また、多くのプロジェクトがバブル経済の崩壊とともに行き詰まり、巨額の借金と赤字を抱えている。関西国際空港、りんくうタウン、和泉コスモポリス、国際文化公園都市など主要な13の第三セクターと、大阪府道路公社、土地開発公社、住宅供給公社の3公社がかかえている長期借入金・社債は1兆7400億円にのぼり、累積欠損額は1160億円に達している(1998年度決算)。これらの第三セクター・公社への府の出資額は合計1341億円、貸付金・負担金は1132億円にのぼる。泉佐野コスモポリスの破綻によって大阪府の1般会計が270億円もの負担を強いられたように、いつ何時これらの事業の破綻によって巨額の債務処理が府財政にかかってくるかわからないというのが現状である。

 大阪府の財政再建を図るには、このような「財政再建プログラム」を見直し、医療・福祉・教育など府民の命とくらしに直結する分野の公的サービスの水準を維持しながら、大規模開発プロジェクトの根本的見直しを行い、公共事業依存型の「景気対策」からの脱却をはかる方向で、あらためて府民参加の下に再建計画をつくり直す必要がある。

 公共事業に依存した「景気対策」にはほとんど効果がなく、地域経済の活性化につながらないことは、バブル経済崩壊後の事態が如実にこれを示している。景気回復と地域経済の活性化を図るには、次のような方策が必要である。

 <1>大阪の誇る地域集積・ネットワーク型の中小零細企業群が活性化するように、中小零細企業の実態に即したきめ細かな産業政策を実施すること
 <2>徹底した情報公開と市民参加による事業再評価システムを確立して、バブル型・民活型の大規模プロジェクトを根本的に見直すこと
 <3>福祉・医療・教育等の分野における公的サービスの水準を維持・拡充し、子育てや老後の不安をなくして住民生活の安定化をはかり、住民参加と地方分権による財政再建への見通しをつけること

 このような立場からわれわれは、大阪府政について、以下の3つの提言を行うこととしたい。

 大阪府政への提言

[提言1] 公共事業依存の「景気対策」から脱却し、地域集積・ネットワーク型中小零細企業の振興を軸とする地域経済活性化政策を推進すること。

(1)大阪経済の潜在力の活用

 大阪経済の再生と地域産業の振興という課題については、新しい産業の育成、ベンチャー・ビジネスへの支援だけではなく、大阪がもつ潜在能力と可能性をどれだけ有効に生かし、伸ばしていけるのかという立場に立って考える必要がある。

 東大阪市による全事業所実態調査、八尾市の中小企業振興条例制定へのうごき、岸和田市をはじめとする阪南自治体労働行政協議会による雇用状況調査と地域経済活性化へのとりくみなど、府下の自治体、経済団体、任意の経済組織等で、既存の経営資源を活用し、まちづくりとリンクさせた、新しい地域経済の発展を模索する試みが進められている。大阪府としてもこうした動きと密接にかかわりあいながら、協力していくことが求められる。

 府下の企業や地域経済は、市町村の範囲をこえ、かつ互いに密接に影響しあいながら動いている。たとえば、中河内地域の中小零細企業の産業集積は東大阪市・八尾市・大阪市などの市域をまたがって展開しているし、泉州地域の繊維産業は岸和田市・貝塚市・泉佐野市等の泉州地域全体として考えていかなければならない。大阪府は各市町村の実態にねざした政策を支援するとともに、広域的に調整する役割を果たしていくべきである。

(2)企業の自主的活動への支援

 地域企業によるネットワークづくり、企業と大学の協同、行政機関とのリンケージ、行政による制度支援への要請など、企業の自主的な取り組みについて積極的に対応し支援する仕組みを、ソフト面・ハード面ともに整備することが必要である。そのためには、既存の企業および企業ネットワークの動きの正確な把握とそれへの適切な支援、試験研究機関・大学等の公的施設や制度の積極的運用をはかることが求められる。

(3)企業による変化への対応とその支援

 個々の企業にとって、時代の変化や技術の進歩に対応して、新しい製品や経営システムを開発していくことは、避けることのできない課題である。たんに企業を保護するというだけではなく、このような新技術・新製品・新経営システムの開発を支援し、それをになう人材を育成するための政策をとっていかなければならない。そのために、ISO(国際標準化機構)の取得やIT(情報技術)革命への対応など、時代に対応した企業自身の高度化への条件を整備し、全面的に支援する体制を整える必要がある。

(4)地域実態の把握と参加型政策づくり

 政策の有効性を確保するためには、それぞれの地域に固有の実態と問題点を把握し、中小企業経営者や労働団体等の率直な意見を取り入れながら、政策を具体化するしくみをつくることが求められる。

 これからの地域経済振興は、地域のまちづくりや福祉充実政策と密接にかかわらせて進める必要があり、また、ネットワークの広域化のなかで基礎自治体の範囲をこえたかたちで進めていかなねればならない。こうした課題にとりくむためには、コミュニティの担い手や企業経営者、労働団体、住民団体、経済団体などが自ら参加して政策や制度をつくりあげていく仕組みをつくるとともに、自治体間の情報交換や相互学習と連携を強める必要がある。大阪府としては、このような市民参加型政策づくりや自治体ネットワークの形成に向けて、積極的に情報を提供し、支援していく必要がある。

(5)産業担当職員の育成と予算確保

 これらの産業政策を推進するためには自治体における産業政策担当職員の数を大幅に増やしその力量を高める必要があり、また既存の産業開発にかかわる研究機関の拡充、民間からの専門スタッフの積極的な採用等が求められる。このような産業政策の実施のためには、大規模プロジェクトのような巨額の資金は必ずしも必要としないが、大阪府自身の政策を展開し、市町村の活動を支援するための適切な予算を確保する必要がある。

 

[提言2] バブル型大規模開発プロジェクトの再評価システムを確立し、個別事業について徹底した情報公開と責任の明確化を行うとともに、府民生活の向上と地域経済の活性化につながる都市基盤整備のあり方について検討すること。

(1)事業ごとの再評価システムの確立

 府民生活の向上と大阪府財政の再建とを両立させるためには、大規模プロジェクトと公共事業の見直しが不可欠の条件となる。ただし、大規模プロジェクトの中にはさまざまなものがあり、それらを同1に扱うことはできない。プロジェクトを見直す場合、次のような2つの視点から分類し、それぞれにふさわしい再評価を行う必要がある。

 1つは、事業主体である。この点では、(a)府が事業主体となっている事業、(b)府が出資している第三セクターや府が事業主体の1つとして加わっている事業に分かれる。

 もう1つは、その事業の進捗状況である。この点からは、<1>計画段階にあり、工事や土地の買収に着手していない事業、<2>まだ完成はしていないもののすでに工事や土地の買収に着手した事業、<3>工事などはほぼ終了したが分譲などが進んでいない事業の3種類に分けられる。

 以上の2つの視点から大規模プロジェクトの分類を例示すると次のようになる。

事業主体 大阪府 第三セクター
計画段階 a−<1> 新庁舎建設 b−<1> 紀淡海峡大橋
工事中 a−<2> 水と緑の健康都市 b−<2> 国際文化公園都市
工事終了 a−<3> りんくうタウン b−<3> 和泉コスモポリス
(2)計画段階の新規事業の凍結

 (aー<1>)の事業については、財政再建のめどがたつまで原則として凍結する。(bー<1>)の事業については、大阪府としては当面凍結する意向を表明し、府を除く事業主体が事業を進める場合にも、事業主体から撤退する。

 これらの事業については、事業を凍結すると同時に、これらの新規事業に関する評価委員会を設置し、その必要性について慎重に検討する。その際、情報の徹底した公開、地域住民や中立的な専門家の参加による第3者機関の設置が必要である。

(3)一部着手済みの事業の休止と再評価

 (a−<2>)の事業については、府民の生命とくらしにかかわる緊急のものを除き、予算の執行を休止し、事業の再評価を行う。(b−<2>)については、いったん事業を休止し、再評価するという府の意向を関係団体に伝え、協議を行う。

 具体的には、阪神高速第2環状線のうち淀川左岸線・大和川線、安威川ダム・槇尾川ダム等があげられる。

 事業をいったん休止した上で、1〜2年間程度の再評価期間を設けて、再評価を行う。その際、現在の建設事業および事務事業再評価制度を抜本的に強化・改善する必要がある。具体的には、第1に、委員の拡充、専門部会をふくめた審議内容の公開、市民が意見を表明する機会の保障等、徹底した情報公開と市民参加の体制をつくること、第2に、再評価の対象を、企業局、外郭団体、第三セクターの事業にまで広げること、第3に、再評価の基準として、その事業の必要性だけでなく、社会的効率からみた採算性、自然環境や社会環境への影響等総合的なものとすることが必要である。

 (b−<2>)の事業で最も大きなものは関西空港第二期工事である。これについては、事業への国家責任、自治体の財政負担、事業費の膨張によるコストの上昇、自然環境への影響、周辺地域開発のあり方等、総合的な視点から第1期工事の総括を厳密に行い、慎重に進める必要がある。今後の事業のあり方について、アンケート調査、シンポジウムの開催、さらには府民投票など府民の総意を結集する必要がある。

(4)工事終了・破綻寸前の事業の見直し

 (a−<3>)および(b−<3>)の事業については、解決を先のばしにせず、1年程度に限定した見直し期間を設定する。

 (a−<3>)については大阪府、(b−<3>)については関係機関が主体となる事業ごとの見直し委員会を設置する。計画過程についての情報公開、経営責任の所在、このまま推移した場合の予測、府および自治体の財政負担の予測等について徹底的に分析した上で、その内容を公開する必要がある。また、今後の処理のあり方については、広範な府民、企業、金融機関、専門家等の意向をふまえ、思い切った規模の縮小や事業内容の転換をはかる必要がある。

 (b−<3>)の事業については、大阪府としては、事業の公共性、事業の破綻の度合い等についてよく検討し、事業主体からの撤退をも視野に入れるべきである。

(5)生活優先の民主的・効率的都市基盤整備

 全体的には、財政再建のめどがつくまで、公共事業は大幅に抑制する必要がある。ただし、特別養護老人ホーム等の福祉関連施設の建設、下水道の整備、防災に留意した都市基盤の整備、治山治水事業等は、必要に応じて実施していかなければならない。こうした生活関連の公共事業を効率的・効果的に推進するために、市民参加による計画づくり、入札制度の改善等によるガラス張りの運営とコストの軽減、地元中小企業への発注率の向上、住民要求をふまえた行政自身の設計能力の向上等をはかることがたいせつである。また、現在進められようとしているPFI(民間資本主導による公共事業推進)については、第三セクター方式のように、公共性の欠落、ゼネコン主導、自治体財政への最終的負担転化、ニーズの変化による破綻などの問題が生じないよう、慎重に検討する必要がある。

 

[提言3]「大阪府財政再建プログラム」を見直し、医療・福祉・教育分野の公的サービスの水準を維持しつつ、大規模プロジェクトの見直しによる公共投資の削減、行政再評価システムの確立による民主的・効率的行政の推進を軸とした新たな再建計画を検討すること。

(1)「大阪府財政再建プログラム」の見直しを

 現在の「大阪府財政再建プログラム」は、財政危機の原因についての誤った判断の下に、大規模開発プロジェクトと巨額の公共投資の継続を前提としており、「痛みを分かつ」という名の下に、高齢者、障害者、児童生徒とその家族などに犠牲を強いるものであり、再検討する必要がある。

(2)公共投資を府税収入の3割に縮減

 大阪府の財政再建を進めるためには、医療・福祉・教育などの分野の公的サービスの水準を維持することを前提に、公共投資の思い切った見直し・休止・凍結・中止を図る必要がある。それによって、公共投資の水準を府税収入の3割(府税収入を約1兆円として、3000億円)程度に縮減する。

(3)プライマリー・バランスの確保

 財政再建を進めるために減収補てん債・財政健全化債・退職手当債等の地方債を発行することはやむをえないが、その場合も、借金返済のための公債費を新たな地方債発行額が上回らないように、いわゆるプライマリー・バランス(地方債の発行と償還を除いた財政収支のバランス)の確保に留意する必要がある。

(4)減収補てん債・財政健全化債運用上の留意点

 地方債を発行する場合、現在のところ赤字地方債の発行は認められておらず、減収補てん債や財政健全化債の発行のためにはなんらかの公共事業を充当しなければならないという矛盾がある。その場合、安易に大規模プロジェクトに依存するのではなく、小規模事業や生活基盤関連を優先するよう工夫する必要がある。

 赤字地方債の発行は、自治体財政の借金依存体質を増長するおそれがあり、避けなければならない。ただし、減収補てん債については、オイル・ショック後の1975年度において赤字特例債が認められたという経過もあり、無駄な公共事業をできるだけ減らすという立場から、特例が認められてもよいのではないかと思われる。

(5)民主的・効率的行政を実現するための行政評価システム

 財政再建を長期計画の下で達成するためには、民主的・効率的行政の実現に向けて大阪府の行財政のあり方について抜本的な見直しを図る必要がある。ところが、現在進められている「事務事業評価」作業はいわば行政による「自己診断」に過ぎず、きわめて不十分な内容となっている。民主的・効率的行政を実現するためには、行政に対する府民による政策評価を前提とし、徹底した情報公開と府民参加による新たな「行政再評価システム」を導入する必要がある。

(6)大都市圏連合による分権的税財政システム実現への努力

 当面の財政破綻を防ぐには、現行システムを前提とした経費の削減や増収努力を前提として、国から地方交付税などを引き出す努力をしなければならない。しかし、現在の大都市圏を中心とする地方財政危機の背景には、各自治体の自助努力だけでは解決できないような構造的な問題がある。自治体課税権の強化や国からの税源委譲などの分権的税財政システム改革に向けて、東京都、神奈川県、愛知県などとの協同による検討と努力を強める必要がある。

※ ご意見・ご感想など研究所までお寄せください。