【解説】電力供給の「同時同量」とは何か

遠州尋美

はじめに

電力自由化以後、話題になることが多くなった「同時同量」の原則。再生可能エネルギー(再エネ)由来電力供給を中心に電力小売り事業に参入しようとすると、大きな壁として立ちはだかるのがこの「同時同量」の原則だ。ただ、庶民にとっては何のことやらチンプンカンプンというのが本音だろう。

インターネットで検索しても、「なるほど」と得心のいくものはほとんどない。9月に発行される特集号の依頼原稿で「同時同量」に触れたら、編集委員会からもう少しわかりやすくと注文がついた。しかし、字数制限の中では到底説明しきれないので、研究所のHPをお借りして簡単に解説することにした。

「同時同量」とは

エネルギーの「安定供給」ということが言われる。普通、この言葉を聞くと、エネルギーが不足して不便を強いられることがないように常に十分な量のエネルギーが確保できることだろうと思うだろう。しかし、私たちが使用するエネルギーの大半は電力として供給されている今日、これを電力の「安定供給」に置き換えると、実は「同時同量」の達成という特別の意味になる。電力については「豊富に」ではなく、瞬間、瞬間において「過不足なく」供給されていなければならないのである。つまり、電力を必要としているその瞬間に(これが同時)、必要としている量だけ(同量)、きっちり供給されなければならないのである。なぜかというと、電気は貯めておくことができないからだ。バッテリーがあるじゃないかというだろうが、まだバッテリーの価格が高いので、経済性を考えると事実上貯めておくことができない。そのため供給過剰になると行き場を失った電気が送電系統そのものや送電系統につながった発電機やたくさんの電気機器に異常な負荷をかけることになる。最悪の場合には発電機が停止してしまい、大規模停電を引き起こすこともある。それを防ぐために「同時同量」が求められるのだ。

送電網は駐車場のない高速道路

送電系統を、途中に駐車場が全くない高速道路になぞらえるとわかりやすい。高速道路の入り口は発電機に、出口は電気機器につながっているわけだ。ただし、高速道路を走っている自動車(電気)は最初から行き先が決まっているわけではなく、開いている最寄りの出口から少しでも早く出ようとする。早く出ないとガス欠になると焦っている状態と思えばよい。電気機器のスイッチがオンなら出口のゲートが開いているので、走行車線からどんどん車(電気)が流出してくる。このとき、入り口が閉鎖(発電機の停止)されれば、走行車線上の車(電気)がどんどん減ってどの出口からも車(電気)が出てこなくなる。電気機器に電気が届かない停電状態になる。

逆に、入り口は開いて(発電機が稼働して)いて車(電気)がどんどん入ってくるのに、出口が閉鎖されている(電気機器がオフになっている)なら、走行車線上の車(電気)の量が増えてくる。開いている出口が残っていれば、そこに車(電気)が殺到して出口が詰まってしまう(電気機器の過熱、故障)。さらに車(電気)が増え続けると、入り口(発電機)を出口と勘違いして逆走(逆流)する車(電気)も出てくる。当然、入り口(発電機)はパンクしてゲートの操作も不可能になる。発電機が予期せず停止して大規模停電が発生するというわけだ。

高速道路の幅員が広くて交通容量が大きければ、車は走り続ければいいので幾分状況は改善される。ただし、燃料も消費するしタイヤもすり減るので、いつまでも走り続けるというわけにはいかない。この問題を起こさないためには、出口の状態(電力消費量の変動)をモニターしながら入り口の開閉(発電量の調整)を適切に行うことが必要だ。これが同時同量ということだ。

もっとも、高速道路上に十分な規模の駐車場(バッテリー)があれば、調整の必要は小さくなる。走行車線が混雑してきたら駐車場で休み、空いてきたら駐車場から出ればいい。経済的で耐久性に優れたバッテリーが量産できるようになれば、発電量を調整する同時同量の必要性は大いに緩和されるだろう。

揚水発電は原子力発電のための蓄電装置

さてコスト的に電気は貯めることはできないと言ったが、実際には、コストを度外視してでも大規模に蓄電している。「揚水発電」ということを聞いたことがあるだろうか。原発のせいで避けられない夜間の余剰電力対策のために作られた発電所である。上下二段のダムを作り、夜間の余剰電力を利用して下段のダム湖の水を上のダム湖にポンプアップする。そして、昼間のピーク時に上のダム湖の水を使って発電し、流した水はまた下のダム湖に貯めるのである。もちろん、ポンプアップに必要な電力の方が、発電で得られる電力より大きいから、発電が目的ならこれほどバカバカしいことはない。なぜわざわざこんなことをするのかといえば、原発を動かしたいからだ。原発の出力調整はコスト効率上不利なので、極力一定出力で運転する。発熱量の変動で燃料棒が劣化したり、核分裂を阻害する核分裂生成物(プルトニウムやキセノンなど)の発生ムラが生じるのを防ぐ必要があるからだ。また、出力を落としても原子炉を冷却し続けなければならず安全管理の手も抜けない。出力を下げても運転コストは軽減されないから、常に一定出力で運転し続けるのが有利なのである。そこで、夜間にはどうしても電気が余る。すると同時同量が維持できないからどうしても電気を使わなければならない。そこで作られるようになったのが揚水発電なのである。

同時同量はどのように実現するか

それでは実際には、どのようにして同時同量を実現するのだろうか。個別の消費者の電力消費をリアルタイムで監視して、それに合わせて発電出力を調整するのか?確かにスマートメーターがすべての消費者に設置されれば、それも可能になるかもしれない。でも、スマートメーターの普及は最近のことで、従来、そんなことは不可能だった。実際には系統を流れる電流(系統潮流)と周波数を監視して調整する。

送電線を流れる電流は交流なのを知っているだろう。交流の方が直流よりも遠距離送電の場合の送電ロスが小さいので、交流で発電するのが主流になった。太陽光発電は直流だが、わざわざコンバーターで交流に変換して送電する。プラスマイナスが順次入れ替わる波の形をした電流が交流である。この波が単位時間(例えば1秒)に何回生じるのかが周波数である。東日本では50ヘルツ、西日本では60ヘルツに統一されている(本当は、日本全体を統一すべきなのだが、歴史のいたずらでそうなった)。この周波数は、要するに、発電機の回転数で決まる。1秒間に50回転して発電する発電機では50ヘルツ、60回転の発電機なら60ヘルツになる。

ところで、電気の消費量が増えれば、送電網を流れる電流が減る。つまり電流の密度が下がりその分だけ電流が流れやすくなる。接続している発電機にとっても抵抗が少なくなって回転数が上がる。つまり、発電量が一定で電気の消費量が増加すればわずかだが周波数が上がるのである。逆に電気の消費量が減ると送電網を流れる電流が多くなり、電流の密度が上昇して電流が流れにくくなる。発電機にとっては抵抗が大きくなり回転数が下がる。周波数が下がるのである。そこで、送電線を流れる電流の周波数を監視していれば、電気の過不足が瞬時に察知できる。供給不足なら周波数は上がり、供給過剰なら周波数は下がるのである。すなわち、周波数が高い時は調整電源の出力をあげて周波数が標準まで下がる間余分に発電し、周波数が低い時は調整電源の出力を絞って周波数が元に戻るまで発電を控えれば良い。

発送電一体の大電力会社が地域独占していた時は、送電系統も調整電源も大電力会社が自前で所有しているので、同時同量を実現するのはそれほど難しいことではなかった。ピーク需要を上回る余剰発電設備を持ち、送電系統を監視しながら調整発電を行なって同時同量の原則にしたがって供給し、積算電力計で使用電力を事後的に確認して電気料金を徴収すればよかったのである。

電力小売り由化で変わるルール

ところが、電力小売りが自由化されると簡単ではなくなった。

技術的には、発送電分離後の送配電会社がこれまで通り送電網を流れる系統潮流と周波数を監視して調整電源(自前でも良いし、委託しても良い)の出力を上下させて実際の同時同量は実現できる。しかし、問題はその調整費用を小売り会社にどうのように負担させたら良いか。それが問題である。

理想的には、個別の小売り会社が契約している消費者の消費量をリアルタイムで監視して、その消費量に応じて自前の発電設備を稼働、もしくは契約発電事業者から調達し、過不足分は調整発電事業者と契約して調整発電させれば良い。新電力と契約すればスマートメーターを設置することになるので、一応、契約消費者の消費量を監視することはできる。しかし、個別の新電力がその情報をえて、それに追随して調達・供給量を瞬時に変化させるというのは非現実的だ。

一方、新電力にしても、契約消費者の消費量に応じて電気料金を徴収するのだから、調達した電気と実際に消費された電気とが一致しなければ合理的なビジネスはできない。瞬時瞬時の調整は無理でも、一定期間内(少なくとも電気料金を徴収する基礎となる期間内)で供給量と消費量を一致させるのはビジネス上当然のことではある。

一方、自由化した以上、大電力会社も新電力も小売り事業者としては、同じルールを適用しなければ、自由競争とは言えないので、「同時同量」についても共通のルールにする必要がある。

計画値同時同量・30分同時同量

これらの条件から、自由化以後は、大電力会社も、新電力も、「計画値同時同量」という共通のルールを義務付けることになった(発送電分離までは大電力会社は事実上変化なし)。要するに、

− 実同時同量の細かな調整は大電力会社が従来の手法で実施する。発送電分離後は、送配電会社が実同時同量を達成する。

− 新電力も、大電力会社同様に同時同量を達成する義務を負うが、その場合、契約消費者の消費量にリアルタイムで追随するのではなく、契約消費者の消費量をあらかじめ予測して、事前に(最終提出期限は供給開始の1時間前まで)供給計画を作って届け出、その供給計画に供給量を一致させれば良い(計画値同時同量)。

− ただし、新電力の場合、供給量が小さいため、短い時間単位で消費量の予測精度を上げることは困難だから、30分単位で計画し、30分単位で調達・供給量をその計画に一致させれば良い(30分同時同量)。現実的には、そのズレが3%以内ならば、一致できたとみなす。

− 契約消費者が多ければ多いほど、各消費者ごとの予測消費量と実消費量とのズレは相殺され平準化される。すなわち契約消費者が多いほど消費量の予測の精度が上がり同時同量の達成は容易になる。そこで、新電力が複数でグループ化し、グループ全体で計画値同時同量を実現するという選択肢もある(バランシンググループ)。

− 計画供給量とのズレが3パーセントを超えた時は、供給量が余剰なら無償で大電力会社に引き渡し、不足なら、通常料金の3倍で大電力会社から調達する(インバランス料金)。


このルールに関しては、インバランス料金の不公平感は絶大で、当然、新電力側の不満は大きい。