「大阪都構想」住民投票の告示にあたって,熟慮のための反対投票を呼びかける声明

2015年4月27日
 一般社団法人 大阪自治体問題研究所理事会

 大阪市における特別区設置(=大阪市廃止・分割)に対する賛否を問う住民投票(5月17日投票)が4月27日に告示された。大阪自治体問題研究所では,この大阪都構想に関して,再三にわたり,その内容および決定過程の問題点を指摘し,その撤回や決定プロセスの中止を求める声明を発表してきた。3月18日公表の「「大阪都」構想(=「大阪市廃止分割」構想)の承認議決撤回を求める声明」は,特別区設置協定書の内容には数多くの論点が提起される一方,市職員に対する箝口令が敷かれたうえに反対派学者の出演をめぐって報道機関への圧力が掛けられる等,この問題に関する自由な言論空間が損なわれるという異常な環境の中で,都構想が市民の暮らしにどう影響するのか全く知らされないまま住民投票を実施することに反対する立場を表明したものである。また,協定書承認議決後の住民説明会が都構想の机上メリットを宣伝するだけの場になってしまう危惧を指摘した。その危惧は予想通り現実のものになった。

  4月中旬から昨日まで,13日間39回延べ予定定員約2万2千人の市主催の特別区設置協定書(以下,協定書)の「住民説明会」が開催された。この説明会は大都市地域特別区設置法第7条2項「投票に際し、選挙人の理解を促進するよう、特別区設置協定書の内容について分かりやすい説明をしなければならない。」に基づき実施されたものであり。その文言から,有権者が協定書の内容についてメリットとデメリットを含めて十分理解した上で,賛否の判断を下すことが可能となるような内容とすることが求められていた。この場合の市長は,協定書に記載された関係市町村の長として,賛成・反対に偏しない立場で内容を説明することが求められていた。これまでの経緯もふまえ,大阪市議会では,住民説明会の広報予算の可決に際し,公平中立な運営,協定書の内容についてのわかりやすい説明に徹するようにとの付帯決議が可決されたところである。

 しかしながら実態は,著しく公平性・中立性を欠き,賛成投票を誘導するかのような偏った内容となった。そのことは,4月17日付けで,市議会の公明・自民・みらい・共産4会派共同による「公正・中立な住民説明会の開催を求める申し入れ」が提出されたこと,21日付けで大阪弁護士会の弁護士有志73人が「大阪都構想」の住民説明会で中立・公正な説明をするよう求める要請書を橋下市長に送付したことからも明らかである(毎日新聞4月22日付)。

 当研究所理事が参加した住民説明会では,予定された2時間のうち,40分程度を大都市局の職員からの説明にあて,そののち橋下市長が登壇し,「いわゆる大阪都構想」の提案理由の説明をおこなった。説明にあたっては,市長という立場で,「知事・市長を経験した提案者である橋下徹」のことばを引用するという詭弁を弄した。その後,1時間10分にわたり,設置協定書の内容をわかりやすく説明するという本来の役割から大きく逸脱し,協定書を可決することが必要だという立場からその理由を説明したのである。

 その結果,市民との質疑応答が始まった時間は,予定された終了時間の約10分前であった。質問者は結局3名に限定され,多数の希望者の質問は共有されなかった。しかも質問者には「手短に」と要請される一方で,答弁者である市長の答弁は無制限で結果的に15分終了時間が延長した。また答弁の内容は,その区で積年の課題である地下鉄・バスの問題に対して,正面から答えることなく,「市では難しい,特別区なら可能性は出てくる」という賛成に誘導する内容のものであった。

 市長は,ある時点での自治体の枠組みや行財政制度の変更である「協定書」と,提案理由やその立場から実現されるはずの将来像という願望を巧妙に使い分けて,それに疑義をはさむ立場を守旧派とレッテル張りを行う仕掛けを巧妙に住民説明会に仕掛けているのである。このように,協定書を承認した市の代表者の説明としては法の趣旨から著しく逸脱した説明であったと言わざるを得ない。

 このように,13日間39回延べ約32万人近くが参加した住民説明会は本来の役割を果たすことはなかった。ひるがえって,今回の住民投票は法的拘束力を持ち,215万人にも及ぶ有権者が対象となっており,住民投票の歴史の上でも比類のないものである。またテーマも自治制度の変更という,実質的に原状回復ができない,長期的にわたって自治の内容を規定する重要な決定である。しかも一度は議会が否決したにもかかわらず政党間の取引の結果,住民投票が行われるのである。さらに,仮に特別区が設置された場合は,隣接市の特別市移行を誘導するという効果をもつ。その結果,市民に大きな分断がもちこまれ,大きな負荷がかけられている。このような場合,人間の知恵は,決定の範囲を小さくするか,結論を先送りすると言うことである。前者は,変革の規模・内容は小さくなるが,改正地方自治法に規定した制度を活用する漸進的改革であり,後者は「議論を継続するために反対投票を行うこと」である。これらは,地方自治・住民自治の本質に沿った行動であり,改革ムードに投機的に賛同する思考停止は地方自治の自殺行為と言わざるを得ない。

 以上のような告示日直前までの経過に鑑み,当研究所は,今後,公正・中立な第三者機関の主催による賛否いずれにも偏しない,住民の疑問や不安に応える討論や学習の機会が提供され,多数の有権者市民が参加されることを望む。また,特別区設置が決まれば後戻りできないため,賛成・反対という二者択一の中で,わからないままの賛成は極めて危険であり,判断がつかない場合,もしくは,理解を深め議論を成熟させるための反対投票を呼びかけるものである。

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