「大阪都」構想(=「大阪市廃止分割」構想)の承認議決撤回を求める声明

2015年3月18日
 一般社団法人 大阪自治体問題研究所理事会

 大阪市を廃止・分割し、5つの特別区へと再編する「大阪都」構想(=「大阪市廃止分割」構想)の青写真を示す『特別区設置協定書』が、大阪市議会・大阪府議会の両議会で承認された。これをうけて、「大阪都」構想の是非を問う住民投票が大阪市民によって実施されることになった。

 この協定書の内容は大阪維新の会所属委員のみによって開かれた法定協議会で作成され、一度は大阪市議会・大阪府議会の双方で否決されたものである。そこへ至るまでの間、法定協議会や両議会の場において、大阪市の廃止・分割の是非に関する重大な争点が数多く提起されていた。以下はその主なものである。

 これらの課題は「大阪都」構想の是非をめぐる根幹に関わるものばかりである。橋下・大阪維新の会は「二重行政」の解消によって年間4000億円を生み出すと主張したが、議会では1億円しかねん出できないとの意見が多数を占めている。当研究所の試算でも、せいぜい3億円程度(特別区のみでは2億円程度)の再編効果しかないとみられる。いずれをみても、「二重行政」の解消によって無駄をなくすという「大阪都」構想の目的が完全に破たんしているのは明らかである。それに対して、初期コストは680億円、運営コストは年間15億円となり、30年間で1130億円のコストが見込まれている。大阪府へ移管される都市計画権限によって、大阪市民の意志に反する開発行政がカジノ誘致事業を中心に進められる懸念が強い。一部事務組合では100以上といわれる事業が行われ、そこには重要な福祉・医療サービス等が数多く含まれているが、このような「屋上屋」組織では住民の声はほとんど届かない。新たに創設される「財政調整制度」によって、大阪市民は税金の4分の3を「大阪府税」とされ、大阪府と特別区の間の配分も最終的には大阪府が決定する。

 このような重大な課題が山積しているにもかかわらず、議会での審議が全くなされてこなかった。橋下市長にいたっては、「自動車を買う時に、エンジンまで調べて買いますか?都構想も市民は中身まで知らなくてもいい」と公言し、市民に対する必要な情報提供さえ否定している。このような状態で、「大阪都」構想とは何か、それによって暮らしはどう変わるのか等について、ほとんど何も知らされていない市民に住民投票を迫るというのは、熟議を旨とする民主主義・住民自治とは全く相容れない政治的暴挙・愚行である。

 橋下・大阪維新の会は「議会の議決後に、役所として丁寧に説明していく」などと言っているが、それらが「大阪都」構想の机上メリットを一方的に喧伝するものになるのは間違いない。反対意見の記述があるという理由で法定協議会広報紙の発刊をストップさせ、反対派研究者の出演に対してテレビ局各社に圧力をかけ、大阪市職員に対しては「大阪都」構想について語らせない「かん口令」を出すといった行動をみれば、大阪市役所・大阪府庁が歪んだ「都構想宣伝マシーン」に成り下がるのは必至である。

 歴史的大都市として発展してきた大阪市の廃止・解体という取り返しのつかない重大な選択は、市民による十分な思慮が積み重なった結果として下されるものでなければならない。住民投票を拙速に行うべき理由など、市民の側にはどこにもない。一部の政治家の都合によって、十分に情報を吟味する時間を与えられない市民が、自分たちの暮らす都市の廃止・解体を迫られる住民投票が実施されることなど決して許されない。

 大阪自治体問題研究所は、このような異常な状況の下で、「大阪都」構想の住民投票を実施することに断固として反対する。そして、市民に対する十分な情報提供と熟慮を前提としてのみ住民投票が実施されるべきことをあらためて主張する。

 以上の点をふまえ、大阪市議会・大阪府議会に対して、『特別区設置協定書』の承認議決を撤回し、「大阪都」構想を再検討する議論を法定協議会において再開し、その結果を正しく市民に公開していくことを求める。そして、議会での十分かつ真摯な議論と結論が得られた後に、必要な情報が住民に届けられることを通じて住民投票の実施へとすすむこと要求する。

以上

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