地域住民の命の砦、住吉市民病院の存続を
 ―住吉市民病院を充実させる市民の会の取組み―

住之江区市民病院を充実させる市民の会事務局長
南大阪医療生協 加賀屋診療所  松本 安弘

大阪市の橋下徹市長は2012年5月末、府市統合本部の決定として2015年に大阪市立住吉市民病院(大阪市住之江区)をなくし府立急性期総合医療センター(同住吉区)に統合すると発表しました。

市民に親しまれてきた病院、最近では産科、小児科で大きな役割

住吉市民病院(以下、住吉病院と称す)は1950年に総合病院として発足。60年以上、地域医療を担い、市民に親しまれてきた病院であり、最近では特に小児科、産科で大きな役割をはたしています。大阪市南部基本保健医療圏(阿倍野・住之江・住吉・東住吉・平野・西成)は特に分娩施設、小児救急受け入れ施設ともに不足しています。分娩できる病院・診療所は住之江区では市民病院以外に1カ所、西成区では0です。小児救急も南部医療圏全体で年間約4000件のうち同医療圏内で受け入れられているのは約1500件で大きく不足しています。住之江区や西成区、住吉区では、「赤ちゃんが産めなくなる」「小児救急たらいまわし」が生まれかねない状況です。

橋下市長になり、突然の統合・廃止
住民の命と健康を守る責任を放棄する暴挙

平松前市長時は小児周産医療に特化した病院として現地建替えの方針が出されていました。

橋下市長は2つの病院の距離の近さだけを理由に「二重行政」という批判を強め、「統合によって小児・周産期医療の診療機能が向上し、よりよい医療が提供できる」と強弁しています。しかし、府市統合本部の資料でも統合案の計画は現地で建替える計画より大きく後退することは明らかです。住吉病院の現地建替え案では分娩数は2つの病院で1446件、統合案は1200件と減ります。小児救急医療のベット数は現地建替え案は135床、統合案は79床と半減する計画です。また、2つの病院は役割が違います。住吉病院は2次医療機関で、病院に直接いって気軽に受診でき、入院が必要な救急を受け入れる病院。府立急性期は「3次高度専門医療」の病院、救急も重症患者優先、分娩もハイリスク分娩優先の病院です。住吉病院の患者を全部受け入れることは不可能で、3次救急を受け入れできず、危険な事態になることが危惧されます。住民の命と健康を守る責任を放棄する暴挙です。

連合町会も医師会・保険医協会・府立病院労組も「住吉市民病院守れ」の一点での共同広がる、大阪市議会でも存続求める質疑

「住吉市民病院を充実させる市民の会」(住之江区と西成区の医療生協や市民団体、労働組合、個人で結成)(以下市民の会と称す)は、「住吉病院存続のために思想・信条の違いをこえて『廃止・反対』の一点で共同しましょう」と連合町会、医師会、地元議員などにくりかえし申し入れました。また、橋下市長のマスコミ報道にまどわされないように2回の全戸配布や商店街や保育所前などで宣伝にとりくんできました。「住吉病院を守りましょう」と訴えると署名に行列ができる大きな反響で「市民病院で命を救ってもらった」「赤ちゃんが産めなくなる」「家族みんなが市民病院にお世話になった」「子供が小児科にかかっている、困る」など声が多数よせられました。

住之江区では連合町会あげて「住吉市民病院の廃止統合に反対し小児・周産期に特化して現地での建て替えをもとめる」署名をとりくむことを決定、回覧板で4万2千筆をこえる署名を一カ月であつめ大阪市に提出されました。

私たちも住之江・西成・住吉区を中心に2種類の署名にとりくみ3万筆をこえる署名を提出しました。また、開業医の8割が加入されている大阪府保険医協会も7月に「住吉市民病院はあくまで現地建て替えを」と見解を発表、大阪市長あての「要請書」を提出、和田住之江区医師会長のインタビューを保険医新聞に「子育て環境が大きく後退し、地域が衰退します。地域医療を守るためにともにがんばりましょう」と掲載、8月と11月には大阪市病院局と交渉をされました。

統合受け入れ先の府立急性期総合医療センターの労働組合支部長さんは「独立行政法人化された府立病院は採算が最優先され、看護師などの不足でギリギリの勤務が続いています。現地たてかえでお互いの病院をよくしましょう」とメッセージを会の全戸ビラに掲載、「住吉病院の廃止と地域医療を考える交流集会」を開催されました。

7月と9月から11月の大阪市議会では共産・自民・みらいの各議員が住吉病院を存続させ現地での建替えもとめて質疑、市民の会と住之江区連合町会が提出した陳情は、維新・公明が「継続審議」を主張したため、継続審議になっています。

民間病院の誘致ではなく、公立病院でこそ小児・周産期医療は確保できます、公立病院として現地で建替えを

今年の1月2月に住之江区で区役所主催で住吉市民病院の廃止統合問題での説明と住民の意見聴取会が7カ所600人の参加でおこなわれ、参加者の意見は9割以上が反対意見でした。区民ホールでは維新の会をのぞくすべての政党の市会議員が参加、公明党も反対を表明しました。住民の声をしっかり受け止めるなら廃止統合は断念するのが当然です。

しかし、橋下市長は2月22日の市議会の質疑で「小児・周産期医療の空白化に地元では不安が多数あることは十分認識している。民間病院の誘致で住民の不安を解消したい」とのべました。小児・周産期医療の必要性を認めさせたことは重要ですが、小児科や産科はリスクが高く、採算がとれないから、民間が撤退してきたのですから、民間病院で確実に確保することは困難です。公立病院でこそ、小児・周産期医療に責任が果たせます。私たちは2月23日「住吉市民病院存続めざすシンポジウム」を開催、3月の大阪市議会に提出された住吉市民病院廃止条例を可決させず、民間病院の誘致ではなく、公立病院として現地での建替えをもとめて、最後まで力をつくす決意を固めあいました。